「ううん。一度生徒になった人間は、先生にとっては一生生徒なんだって。生徒だってそうだよ。私は幼稚園を卒園して、小学校を卒業したけど、先生達は今でも私の中で先生だもの」

「……そうだな」

「私もその子みたいに、先生の生徒にしてくださいよ」

「あいにく講師時間は埋まってます」

「ケチ」

「代わりにこれで我慢してくれ」


 幸哉から円形の物を受け取った絵茉は、その天辺を指で押して開けた。形から想像はしていたが、改めて確信する。


「時計?」

「初めてソイツと会ったとき、時計をあげたんだ。俺じゃなくて父さんがだけど。だから夏目にも、俺の二番目の生徒さんとしてそれをやる。大事にしろよ……それは俺が作った奇跡の時計だ。こだわりのチャームが自作の証」

「ははっ、なんですかそれ。持っていたら願いでも叶うんですか?」


 旅行記を示す、緑の本のチャームがぶら下がっている。時計にとっての持ち主が幸哉のままである以上その時計が力を発揮することはなく、チャームはあっても無くとも問題ない。


「夏目が持っていても、ただの時計だよ」

「それは普通の時計です」

「違いない」


 時計がどういうものかは語らなかった。本人に使えなければ、語るだけ意味のない内容だ。