「先生は家庭科の先生なのに、国語も出来るんですね」
最終下校時刻まで残っていた二人は、帰りも共にすることがあった。夏に近付く春の今、空はまだ明るく薄いオレンジだ。
「得意というほどでもないけどな。知り合いが勉強苦手で、親御さんから教えてやってくれって頼まれるんだけど、教える側が理解出来ていなきゃ教えられないだろ? それで、国数英は割と今でも復習している。半分ソイツのおかげで鍛えられたようなものだな。でなきゃ中学の勉強なんて、とっくの昔に忘れてるよ」
「さっき言っていた、私と同じでガイドを頼りにしている男の子ですか?」
「ああ」
「いいなあ……」
顔も知らない男の子を羨んだ。
「これから先も先生の生徒でいられて。私みたいに期間限定じゃないんだ」
「俺はこの先一生教師をするわけじゃないし、ソイツも一生生徒でいるわけじゃない。ピーターパンでもないんだ、皆大人になる。そしたら、教師と生徒の関係なんてお終いだよ」
全員が期間限定だ。永遠なんてものはないと、幸哉は感じていた。