祈りと共に時環が手に力を込めると、止まっていた秒針が右に揺れた。通常のリズムよりも大きいその音が旅行祈からの返答だった。


「ごめん。勝手なことだって分かってる。人の物を許可無く使ってはいけないことも。人は他人に知られたくない過去が一つや二つあることも。でも……」


 見てしまった以上、たとえ目の前に無傷の本人がいても、頭の中はかつての幸哉をチラつかせる。


「助けたいんだ。アンタにとってはもう昔のことで、どうでもいいことかもしれない。それでも俺にとってはついさっきのことで、ただの自己満足なだけだとしても、俺はアンタを助けたい」


 ――いや、こんなのは偽善だ。それでアンタが作った時計の力を借りるのもおかしな話なんだ。多分俺は……。


「アンタのことが知りたい」


 助けたいというのは嘘ではない。けれどそれと同じくらい、兄のように慕っていて遠い彼のことが知りたい。

 一度動いて、再び止まった時計の針が再度動き出した。時環の身体が地に崩れ落ちる。

 床と衝突すると思っていた想像は外れ、不思議と痛みは生じなかった。