「やっぱり、コーヒーもらえる?」

「ああ」


 コーヒーを挽く音を聞きながら、カウンター席の上に鞄を置いた。

 そのまま隣の席に座ることはせず、時環は奥のテーブルの上に出された部品に目をやった。近付いてみると、そこには出来上がった時計も置かれている。


「なに、作ってたの?」

「旅行キだ。過去を見に行く専門の旅行祈。『祈る』の文字に相応しく、流れ星のチャームを付けて出来上がり。と言っても試作品だから、不備があればまたやり直しなんだけど――」


 振り返った幸哉から、温厚な顔色が消え去った。かすかに怒りを含ませながら、その目は驚きに満ちている。視線の先には無断で時計を握っている時環の姿。


 ――旅行記は持ち主のために力を発揮したんだ。持ち主である、幸哉さんのために。俺があの人のためなら戻りたいと願ったから。


 それは旅行記達にとって、持ち主のために戻ってくれる者が目の前に現れたということ。

 旅行祈はどうだろう。

 旅行祈はこの意志を、持ち主のためになると信じてくれるだろうか。

 力を託してくれるだろうか。