「だといいが……頭で考えるのと実際に行動で示すのとは違うというし、やっぱり……」

「もちろん無理にすべきとは言いません。でも、どうしようもなくなれば最悪『やり直す』ことも出来るってことを、忘れてませんか?」


 小首を傾げて見せた笑顔は、先程までの雑談で見せた顔ではなく顧客を見つけた営業マンの顔。買わせてやろうなんて悪どい感情はない、必要があれば力になってあげるというものだ。

 幸哉の急な切り替えように空気は一瞬にして変化した。刻間は手で口を押さえながら、堪えきれなくなった笑いを吹き出した。


「そうだな! 元はと言えばここは喫茶店じゃなくて時計店だもんな。コーヒーばっか飲みにきて忘れそうになる!」

「たったの十年前のことですよー、刻間さんが『旅行記』を使ったのは。コーヒーを求めてきてくれるのも大歓迎ですが、時計を求められるのは更に大歓迎です。今度は奥さんと一緒に、映画を観る感覚で『旅行祈』でもいかがです?」

「そうさせてもらうよ。口論が終わって落ち着いてしばらくしたらね」

「口論?」

「女の子を迎えるか、男の子を迎えるか」

「ああ……」


 希望は綺麗に分かれたのだろう。

 夫婦それぞれどちらを希望しているのか、一人当てゲームで予想する。