行き先は運動場。委員の生徒と教師達が、間もなく開かれる体育祭の準備をしている。
目的地に着いた幸哉は息を整えて、表情を落ち着いたものへ取り繕う。足の速度を普通の歩きに変えて、準備を手伝いに近付いた。
見つかるわけにはいかない時環は、離れた位置から光景を眺めた。直ぐに逃げ出せるよう、殆ど学外に近い場所。
幸哉は一人の女生徒に話しかけていた。誰かの面影が感じられるその女生徒は、受付の方を手伝いに行くようだ。
「まさか……」
「駄目」
可能性を過らせたと同時に、時環の後ろでフェンスの音が鳴らされた。振り向くと、そこには外から運動場の様子を窺う絵茉の姿。
柵が越えられない壁を生み出していた。
「夏目さん! よかった、遅いから何かあったんじゃないかって心配したんだ。いつの間に学外に……そうだ、あの子ってもしかして中学生の夏目さ――」
「そうよっ! そんなことはいいから! 早く福沢先生をあそこから離して!」
時環の言葉を遮って絵茉は叫んだ。突然のことで、時環は脳の処理が追いつかなかった。
整理が付く前に再び強風が吹く。飛び舞う砂から目を瞑っていると、何かが崩れ落ちる大きな音と、人々の悲鳴の声が聞こえた。