「まあ、市販されているものだしね。高い物だし、使われずにいたっておかしいことじゃないよ」


 時環の家の旅行祈も変わらず未使用だ。個人的に絵茉の入手経路は知りたかったが、今この場で聞く必要は無い。


「一応聞くけど、盗んだとかじゃないよね?」

「貰ったのよ。私は時計なんて、安物で十分だもの」

「そう……」

「丁度、この頃に」


 絵茉は自分が持つ旅行記を見た。先ほども食堂に掛けられている時計に目を向けて、何度か時間を気にしている。

 顔色も幾分悪そうに見えた。体調でも悪いのだろうかと時環が顔色を窺うと、絵茉は椅子を引いて立ち上がった。


「ちょっとお手洗いに行ってくる。刻間くんはここで待っていてくれる?」

「ああ。多分、離れていても片方しか帰れないことはないだろうし、ごゆっくりどうぞ」


 旅行祈を使って学校探索をした際、基本的には二人一緒であったが多少は幸哉と離れて行動したことがあった。帰還に問題が生じるなら、幸哉は事前に注意を促しただろう。時環が一人で歩いて行くことがあっても何も言わなかったためおそらく問題ない。


「ごめんね、直ぐに戻るから」


 小さな小走りで、絵茉は食堂の外へ出て行った。

 彼女は直ぐにとは言ったが、二十分程の時間が過ぎても戻って来る気配を見せなかった。