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 校舎の裏口付近にある食堂は、放課後ということもあり人の出入りは緩やかであったが、幾らかの学生と外部からの客がまばらに席を埋めていた。

 時環の財布の中には六年以上前の硬貨は入っていたが、幸哉から過去の食べ物を食べてもいいのか聞いていない今、飲み食いしたことで未来の人体に影響を及ぼす可能性を考えると無料の水にも手が出せない。

 何も購入せずに席を陣取る厄介な一般人となって、状況が掴めない絵茉に旅行記について話した。確証が持てない作動方法については深く語らずに。


「というわけだ。時間が来れば自然と戻れるから、その辺りの心配はしなくていい。このまま何もせずにここにいることも出来るし、せっかく来たから夏目さんが変えたい過去を見に行く手もある。どうする?」


 時計にとっての持ち主が誰であれ、その時計の力を引き出したのが誰であれ、旅行記を持っていたのは絵茉だ。決定権は彼女にあると時環は判断した。


「聞かないの? どうして私がそんな時計を持っていたのか。刻間君の話が本当だとして、今になって過去に戻すなんて刻間くんは巻き込まれたも同然じゃない」


 時環の想像が正しければ、巻き込んだのは時環の方で巻き込まれたのは絵茉だ。時計を持っていたのが時環であったなら、飛ばされるのは時環だけで済んだ筈。意味も無く手を掴むようなやりとりは特に行っていなかったのだから。