「旅行記? 何言ってるの? ここが六年前だって言うの? ふざけないで!」
「ふざけてなんかいない!」
外から地面の砂が入り込む程の、強い強風が吹いた。口論になりかねない二人に冷静になるよう訴えかけているようだ。周囲に耳を貸すほどの余裕が生まれ、大人の声が聞こえてくる。
誰がどうみても、今の自分達の立場は不法侵入した部外者にしか見えないだろう。見つかれば警備に連絡、警察への通報。子供の命を預かっている学校側は、同じ子供でも大学生は流石に見逃さない。事情があって訪れた小学生か中学生、良くて高校生までが見逃しラインといったところか。
「とりあえずここを離れよう。どこか隠れられそうなところ、ない?」
時環が職員に警戒の目を向けている最中から、絵茉は近くの教室の黒板の方に釘付けになっていた。学生が掃除したあと使われていないようで、綺麗に消されている。書かれてあるのは月日と曜日くらいだ。
「――月……」
「夏目さん?」
「あっ、なに?」
「一般人がいてもおかしくない場所とか、教員があまり通りかからないところとか、知っていたら教えて欲しいなって」
「それなら図書館と食堂よ。ウチの中学、この二つの施設だけは一般開放しているの。校舎は許可書がないと入れないけど、あの二つは誰でも自由に出入りが出来るから大丈夫」
「じゃあどちらでもいいから向かおう。案内頼める?」
再度強風が吹いた。台風でも近いのだろうか。
「……うん。じゃあ食堂に行こっか」