だって、いや……そんな筈はない。

 どこかで見覚えのある絵茉の時計。あの本のチャームは――


「違う。だからってあり得ない話だ!」


 旅行記と、旅行機と、旅行祈。

 そしてもう一つ。あの日、箱に入れられず机の上に置き去りにされていた試作の旅行キ。

 彼女が自分のために望んだのであれば、時計はとうに力を放出している。今になって起こる筈がない。幸哉は言っていたのだから。



『専用の箱がロックの代わりになっていて、箱から出して初めて旅行キは手続きを済ませた持ち主のために力を発揮する』



「持ち主にしか使えない……持ち主のため?」


 持ち主のために力を発揮する。持ち主にしか使えない。意味は大きく異なる。

 時計を見て懐かしそうに、愛おしそうにしていた絵茉。

 この時計の持ち主は……。



『箱から出して』

『手続きを済ませた』

『持ち主のために』



 もしも手続きを済ませていなければ。

 この時計の持ち主は。



「――キヤさん……」



 俺は過去に戻りたいとは思わない。

 アンタのためなら戻りたいと思う。


 考えるよりも先に身体が動いていた。時計を持っている少女の手首を、時環は勢いよく掴んだ。

 二人で一つの旅行祈を使ったとき、手を握ったから。

 きっとどの旅行キも、方法は同じ。



 ――アンタのためなら、過去に戻ってもいいよ。