彼女は答えなかった。

 そこそこ楽しく今を過ごしている。思い出として過去を大事にしている。今に満足しているのも嘘ではなく、別に戻らなくてもいいかとも思える。ならば何故戻りたいのか。


 問いかけを、時環は自分自身にも投げた。

 もしも再び過去へ戻れるなら戻りたいか。


 今はもう、必ず戻りたいとは思わない。でも助けてくれたその人がピンチなら、過去に戻ってその人を助けに行く。

 その人のためなら意地でも戻りに行く。

 そうして初めて、恩を返せた気分になる。ただの自己満足だ。


 彼女はどちらなのだろう。どちらで迷っているのだろう。

 自分のために戻りたいのか、他人のために戻りたいのか。

 過去へ戻った彼女は、想いは別として、どう行動するのだろう。


 風の音よりも大きく、子供の声よりも大きく時計の針の音が耳に入った。かすかに聞こえていた音は徐々に大きく響いている。気のせいだと思ったそれを、おかしいと時環が感じたときは既に遅かった。


「えっ……?」


 絵茉は時環よりも、持ち物に起こった異変に少し早く気付いた。気付いたところで絵茉は何も分からない。

 時環はこの音を知っている。確証はないが、昔に一度聞いたことがある音によく似ていた。心臓が鼓動打ち、その可能性を膨らませる。