「急な事故だったの。命に別状はなかったけど、大怪我をして実習が不可能な状態になったんだって」


 人から聞いたような口ぶりから、教師は彼女に直接伝えなかったのだと分かる。伝えたくとも、伝えられなかったのかもしれない。


「先生と生徒のサヨナラなんて、軽いものだものね。教育実習生なら、特に」


 緑の本のチャームが付いた懐中時計を絵茉は取り出した。
 思い出の品なのだろうか。小さく揺れたそのチャームが、時環はどこかで見覚えのある気がした。


「会いたいな……」

「やっぱり好きなんじゃん」


 クラスメイトが言っていた、夏目絵茉は恋愛に興味がないという情報は誤りだ。彼女は恋愛に興味がないのではなく、好きな人がいるから他の男に興味が無い。


「人としてね」


 本人は困ったことに無自覚という。