「だから、そういう意味で好きとかじゃないの。尊敬とか、あこがれとか、感謝の気持ちでいっぱいだったみたいな。刻間くんにはそういう人、いないの?」
「いるよ。昔助けて貰って、それからも何かと助けてくれる。もう大学生なんて大人だっていうのに全然しっかりしたところを見せられなくて、俺はあの人を助ける側に一度もなれていない。情けない話だ」
今朝だってそう。お弁当も、時計も。幸哉の前で成長できた試しがない。幸哉は時環に、弱さを見せない。
「でも、俺の場合は同性だからさ。夏目さんは異性だろ? 性別が違うと抱く感情とかも違うんじゃない?」
「刻間くんは、男と女の友情はないと思っているタイプなの?」
「そんなことはない」
「なら、違わないよ。まあ、私があの人に抱いているのは友情とは少し違うけど」
違うと言った彼女は直ぐさま肯定に切り替えた。違わないが、彼女の場合は違う。
「友達じゃなくて先生だから。本当に優しくて凄い先生だったの。教育実習生なのに妙に小慣れた感があって、実習が終わった後に家庭教師をしてほしいなって思ったくらい」
「頼めばよかったのに」
「頼んだよ。既に知り合いの男の子の先生をしているからって、断られちゃった」
「そいつの次。合う先生を見つけたら、食らいついて確保しないと。学生の時間は無限じゃないんだし、その男の子に勉強の必要が無くなったとき、その席は空くわけじゃん」
「今更だよ。それに、そんな機会は与えられなかった。教育実習の期間が終わる前に、あの人は学校に来れなくなった」
――問題を起こしたのか?