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 五百円玉を一枚入れて、自動販売機のラインナップから一つのボタンを押す。毎度割れてしまうのではないかと不安が過る音を鳴らしながら、エナジードリンクの瓶は落とされた。

 お釣りのレバーを押さずに続けてもう一つ。容器はスチール缶なため、こちらは落ちてきても割れる心配はさほどない。


「はい。ブラックでいいの?」

「ありがとう。コーヒーはそのままが一番好きなの。意外?」

「かなり。キャラメルラテとか好きそうなイメージ」

「よく言われる!」


 ふふっと笑いながら、夏目絵茉は缶コーヒーの蓋を開けた。

 風に当たっていただけだという彼女に誘われて、川辺でのんびりと過ごす。先ほどの友人が近くにいたならば、時環のことを羨んだだろう。イメージに合う甘いコーヒーは、そんなに好きではないらしい。


「中学のときの先生の影響なの。昔は紅茶党で、コーヒーとは無縁だった。国語や古文の勉強を教えてくれてた先生から、いっつもコーヒーの香りがしていてね」


 その人が淹れてくれるコーヒーが好きだった。家からわざわざ豆を持ってきて、家庭科室に侵入して淹れてきてくれた。

 そう語る彼女の姿はとても楽しそうで微笑ましく、彼女に想いを寄せる者が見れば心を打ち砕かれていただろう。良い意味以上に残念な、失恋という悲しみの意味で。


「好きなんだ、その先生のこと」