自分の昼食代はケチっても幸哉へのお礼にはお金を払える時環であったが、残念なことに目的のチョコは一日の分が既に売り切れてしまっていて手に入らなかった。

 この田舎町にあるそこそこ有名なショコラティエの小さな個人店は、時計店からそう遠くない場所にある。時計店に向かう道のりを歩きながら、お使いで一人で歩いた過去を思い出す。


「懐かしいな、この道」


 橋は今でも健在だ。あの日、小さな少女とあそこで話した。彼女の姉が落としたというノートを時環は取ろうとして、落下しかけた。どうしてかやって来た幸哉に助けられた。

 あの後ノートはどうなったのか。


「太陽さんに勝負を挑んだ北風さんが、リベンジを果たした。なんてな」


 案外まだ、ノートはあるかもしれない。見に行ってみようと、時環は相変わらず人通りの少ない橋の上に向かった。そこには先客がいた。あの日の少女と同じように、橋の下を眺める少女。


 あれは――


「夏目さん?」


 声が耳に届き、少女は振り返った。今日話題に出なければ、ただの他人だと時環は素通りしていただろう。


「刻間くん……」

「こんなところで何してんの?」


 顔を覗かせて、ノートがあった石壁を見た。年月が経った今、そこには紙切れの一枚もない。