「少しくらい何か食ってから寝ろよ。いや、食べて直ぐに寝るのは駄目だけど……。一日二食は健康に悪い。サンドイッチでいい?」
言いながら、相手の返答を聞くまでもなくパンを手に取った。帰ってきたのはイエスでもノーでも具材の種類でもない。
「なんで、こんな古い時計を出しているんだ?」
「え?」
カウンターの上に置いている、一つの時計に対して。
調理の際にうっかり落ちてしまわないよう、幸哉にはポケットに入れている時計をカウンターの上に置く習慣がある。それは斗夢も知っていることで疑問に思うことはない。つまりは時計の種類の問題だ。
幸哉は今日も置いた記憶はあるが、斗夢の言う古い時計ではないため疑問に思った。目を向けてみると、その場にはない筈の時計がそこにある。その場にある筈の、自分の時計がそこに無い。
「やっべ、間違えた。アイツが時計を忘れたってぼやいていたから、貸そうとと思って上から持ってきたんだよ」
「じゃあ、時環君に渡したのは」
「ああ」
斗夢は特に気にしていないようだが、幸哉は違った。顔を顰め、手を額に持っていき、心の底から少し前の自分の行動を後悔した。
「……とんでもないミスをしたかも」
過去を思い返す。
確率はゼロではないどころか、かなり高い。
どうか我が子の時計達が、時環の願いに応えないことを――願う他ない。