「過去はあまり振り返るものじゃない。お前の過去を振り返るっていうのは、同時にお前の周囲にいた人の過去も振り返ることになる。実際に旅行祈は、お前自身が一人で他人の過去を見に行くことも出来るしな。これが他の二つにはない、旅行祈だけの特徴だ」


 自分の過去にのみ干渉する旅行記と旅行機。干渉が出来ない、鑑賞専門の旅行祈は、自分だけでなく他人の過去ですら見に行くことが出来、見に行かずとも覗けてしまう。

 今日、男子生徒の過去を覗いたように。


「お前だって思い出したくない過去や、知られたくない過去の一つや二つあるだろ」


 見る気がなくとも見えてしまう。

 そのため誰の、どういった過去を見るのか、他人の過去を見るとして相手に許可はとっているのか、事前に聞いた事柄と一つでもズレが生じると、他人に差し出した旅行祈は本来発動しない仕組みになっている。

 幸哉は守秘義務を破り、他人である時環に第三者の過去を見せてしまった。それは到底許されることではなく、この先当たり前となってはならない。


「だから旅行祈は信頼出来ない人にはあまり勧めないし、使用用途次第では売ることも出来ない」


 知られたくない過去。思い出したくない過去。

 瞳の奥に隠された思い出の中に、幸哉もそのような過去を抱えているのか時環は気になった。


 時環には知りたくても知らない、幸哉に聞くにも聞けていないことがある。

 どうして幸哉は教師を目指すのを辞めたのか。


 時環が中学のときに辞めた。気になるけど、詮索はしなかった。

 幸哉の言った通り、時環にも人に知られたくない過去がある。幼い頃のあの過去は、友人達にはあまり知られたくない。