透明であるため隠れる必要がないにもかかわらず、幸哉は壁ごしにソッと相手の姿を窺った。男子生徒は小の方ではなく大の方だったらしい。二つの個室の内の一つに入っていった。扉が閉められたことにより姿が見えなくなると、幸哉は壁に隠れるのをやめて個室に近付く。


「まさか……」


 時環の嫌な予感は的中した。幸哉は空いているもう片方の個室に入り、トイレットペーパーが置かれている石の戸棚に足をかけた。流石の時環もこれは見て見ぬふりを出来ない


「やめようよ幸哉さん! 犯罪だよ!」


 上って人が用を足している場面を覗く覗き魔を、時環は地に引きずり降ろそうとした。悲しいことに、力では全く叶わない。

 顔色一つ変えない幸哉は顔を隣の個室に覗きこませたまま、時環に手招きをした。人の排泄光景を見る趣味がない時環は、あからさまに嫌そうな顔を向ける。何より臭いをかぎたくない。トイレという場所は個室でなくとも既に臭い。幸哉は全く気にしていなかった。


「来い、面白いものが見える」


 軽やかに着地して時環の手を引いた。本人は欠片も望んでいないというのに、自分の上った場所を譲るように背中を押す。半ば無理矢理上らされた。


「ちょっ、押すなっ」


 覗き魔の共犯にされてしまった時環は隣の個室の中を目にする。幸い、時環の想像する場面は見えなかった。

 代わりに学校側からして許されない光景が見えた。見てはいけないものを見てしまった。