見えていないにもかかわらず、時環は胸に矢が浅く刺さったような緊張感を抱いた。テスト特有の空気のせいでもある。一度抱いてしまうと心の内が落ち着きを失う。
だがどれだけ緊張を抱いても、それを相手にカンニング行為を疑われ、間違った確定をされる心配はない。
この場にいれば多少は空気に慣れるだろう。テスト空間の空気に触れ、それを珍しい空気だと感じさせない。
ペンの音だけが声をあげる静かな学内。廊下を歩く誰かの足音が大きく響いて、二人とも揃って目を向けた。音を鳴らす正体は教員ではなく生徒のもので、テスト中の今は似つかわしくない存在だ。
自分と同じようにトイレに行きたくなった奴かと、時環はさほど気に留めなかったが幸哉は違った。
「追いかけるぞ」
「えっ!?」
トイレに向かう男子生徒の後を追った。行き先が行き先な分、犯罪臭を感じる。女子同士の連れションの方がまだマシだ。偶然トイレに居合わせたり、行こうと思うタイミングが同じなのと意図的についていくのでは訳が違う。