テスト開始のチャイムが鳴る。裏向きに置かれている紙をひっくり返す音が一斉に響いた。
紙を走る鉛筆の音を聞きながら変化のない静かな光景を見続けることは退屈なもので、幸哉は早々に限界が来たようだ。真剣にテストに取り組んでいるこの時間軸の時環に近付いて、答案用紙を覗き込んだ。
「早速間違えやがって」
「人が解いているところをジロジロ見ないでくれる?」
先日のテスト中を思い起こし、透明の幸哉に見られていたと思うと寒気が走る。集中が出来なかったのは気配を感じ取ったからではないか。
幸哉が答案を凝視している姿を横目で嫌そうに見つめ、時環はテスト監督員のように歩き回り、クラスメイトの解答を見て回った。していることは幸哉と大差ない。
立ち止まって、クラスで最も成績が良い男子生徒の答案を覗き込んだ。していることは幸哉と間違いなく同じである。
――解答に迷いがない。
百点を取れるものなど滅多なことでは現れない。不正解がどこかしらあると思いつつ、全ての答えが正解に見えてしまう。
顔を上げると試験監の教員が辺りを見渡していた。時環は目が合った、ように感じたが、ただ見渡しているだけだ。彼に未来から来た時環の姿は見えていない。