バナナの皮に滑って転ぶ漫画みたいな生徒。開いた窓から差し込む強風に飛ばされる先生のカツラ。ついこの間、視界に入れた距離や角度は違えども確かに見た記憶がある。


「そりゃあな。ここはお前の思い出なんだから、どこに行ったってこちらの世界の時間は操作されて、お前が見た光景は必ず思い出として見られる」

「なにそれ」

「でなきゃ自身の過去を見るという、思い出旅行にならないだろ。過去の風景を見るただの時間旅行になる――おっ、いたいた」


 元より教室から出る者は限られていた昼休み。多くの生徒が教室に戻り、早くもテストモードになる中、トイレから帰ってきたこの時間軸の時環がハンカチで手を拭きながら教室に入った。霊体状態の時環からすれば、同じ顔のドッペルゲンガーを見ているようで変な気分だ。自分自身だというのに他人に見えてしまう。

 時環が席につくと試験監督の教員がテストを配り始めた。もう誰も机の上に勉強道具は乗せていない。筆箱から出された鉛筆が、下に落ちないように消しゴムで支えられている。


 黒板には一限目から六限目までのテスト時間、端に本日の日付と曜日が記されているくらいだ。

 全体を見渡せられる幸哉と時環は、後方から授業参観に来た保護者のようにそんな風景を眺めていた。


「金属探知機が使われたのは二日目からなんだよな。じゃあこの一日目に何かあったはずだ」

「何かあったかな」

「覚えがないなら他のクラスの可能性もある」