寝静まった夜。

 チク……タク……と個々に音を立て、統一性のない合唱を繰り広げる彼らの声が、古めかしい階段の音よりもずっと大きく響き渡る。

 小さな子供の中には家で一人留守番をしているときに聞こえてくるいくつかの時計の音が怖いと感じる者もいるが、流石に物心ついたときからこの声を聞いて育てば、もう高校生になったから等関係なくそんな感性は持ち合わせない。

 夜中に目が覚めて、水を求めて一階に足を降ろした途端、零を指した振り子時計が鐘を鳴らしても一切動じない。もうそんな時間か……と呑気に考えられるほど音は彼の身体に馴染んでいた。


 ――福沢時計店。


 デジタル時計が普及している世の中、いくつものアナログ時計を取り扱い、修理を承るこの店は深夜三時にも関わらず明かりが灯っている。店主の一人息子である福沢幸哉は奥から漏れているオレンジ色の光を見て目を細めるが、泥棒かなんて疑いは欠片もない。もはや日常茶飯事で、もう何度目か分からないほど発した言葉を今夜もまた告げた。


「まだ起きてたのか、父さん」