おっさんは、考えられるだけのテーブルゲームやボードゲームを作成した。カリンも、トランプでできる遊びを書き出した。トランで行うゲームは、商業ギルドに登録することはできないが、トランプの本体は大丈夫だと言われた。カリンのスマホには、タロットカードを使った占いが入っていて、再現は可能だったのだが、おっさんとカリンが”占い”の説明をしても、イーリスはわからない様子だった。神の存在が信じられている世界では、”占い”はあまり意味を持たない。”神託”が存在していると信じられている。それに、”先読み”や”未来視”といった希少なスキルも存在している。
カリンとおっさんで作った物を、一部を除いて辺境伯に提供すると決めた。
料理のレシピの一部は、孤児院に提供することになった。おっさんは、しつこいくらいにイーリスに確認をした。
「イーリス。絶対に、大丈夫なのだな?」
「はい。大丈夫です。ギルドも守ります。権利を、貴族や王族や豪商が奪うことは絶対にありません」
「孤児院には、横のつながりがあるのだな?」
「はい。王国内だけでなく、他国との繋がりがあります」
「モグリ・・・。非認可の孤児院は存在するのか?」
「神の祝福を得ていない孤児院ということですか?存在はしていないと思います」
おっさんは、疑問がなくなるまでイーリスに質問を行った。
特に、権利関係は絶対に大丈夫だという保証がほしいと言い出して、商業ギルドに人間を呼びつけて問いただした。
おっさんは、カリンに説明をして、簡単なお菓子のレシピを孤児院に提供することを考えている。レシピを使って、孤児院が主体となって商売ができればよいと考えているのだ。そのためにも、レシピの権利は”孤児院が持っている”ことにしなければならない。
渡すレシピは、3つに決まった。料理を作っているときに、届いた家畜の餌がポップコーンに適している品種だったのを気がついた。主に作っているのが、辺境伯の領にある村落だと知ってポップコーンを孤児院に渡すことにした。同じく、辺境伯領の港町で取れる天草を使った寒天のレシピを渡す。寒天は、いろいろ使いみちがあるので、思いつく限りのレシピを渡すことにした。
もう一つは、お菓子ではない。酵母を使ったパンのレシピだ。天然酵母は、カリンが作製を行うことになった。カリンが持っているスキルである”錬成”が酵母つくりで威力を発揮した。その後、酵母の作り方をカリンがまとめた。イーリスの屋敷に居るもので、錬成のスキルを持つものなら生成が可能になったので、酵母のレシピも合わせて登録することになった。
権利を孤児院に渡すにあたって、辺境伯にも配慮した。おっさんは、辺境伯領が主な原産地になっている物から、レシピを考えて孤児院に渡すことにした。王都にある孤児院だけではない。他の領地にも孤児院が存在している。それらに、材料を提供することで、辺境伯の領に金が回るようにしたのだ。
「まー様。本当によろしいのですか?」
「そうだな。カリンの承認も取れたし、問題はない。ただ・・・」
「ただ?」
「そうだな。王都の孤児院が独占しないようにしたいが、なにか方法はあるのか?」
「はい。連名で権利を主張してみてはどうでしょうか?」
「連名?」
「権利者を、まー様にして運用を孤児院に任せる感じになさるのが一番です」
「そういう方法もあるのだな」
「はい」
「それなら、権利者をイーリスにしておくか?」
「それは・・・」
「なにか、問題か?」
「はい。私はまー様とカリン様のご指示に従いますが・・・」
「そうか・・・。身内から・・・」
「はい。もうしわけありません」
「理由があるのなら、しょうがないな。俺よりも、カリンは・・・」
おっさんは、カリンを見るが腕を交差させて拒否のサインを出している。
「なぁイーリス。バステトさんではダメか?」
「どうでしょう。でも、確かカードを作っていましたよね?」
「あぁバステトさん用のカードを作ってあるぞ?」
「それなら、私が代理で、バステトさんのカードを持っていけば、登録はできます」
「よし、それなら、バステトさんで登録を行おう。ボードゲームのいくつかも、バステトさんで行って、孤児院に運用を任せよう」
「・・・」「まーさん。ゲームは少し待ったほうがいいと思う」
「そうか?」
「うん。孤児院も、お菓子の販売を始めると思うから、そうしたら手が足りないよ?」
「あぁそうだな。一気にすすめてもしょうがないか」
「うん」
おっさんは、カリンの言葉で自分の意見を引っ込めた。バリエーションが作られる、双六を孤児院に渡すことに決まった。
話が決まって、休憩をはさもうとしたタイミングで、メイドが、部屋に入ってきた。孤児院から、院長と副院長がまーさんを訪ねてきたと言われた。
「まーさん様。これが、日記です。お収めください」
院長と副院長は、通された部屋で椅子に座るのではなく、いきなりおっさんに木の皮で作られた紙もどきを提出した。
初回だったので、おっさんが受け取ると伝言をだしていたのだ。
渡された物をカリンとイーリスにも手渡して内容を確認する。
その間、戸惑うおっさんを見つめながら、院長と副院長は勧められる椅子に座らないで、おっさんの前に立ち続けた。
院長と副院長は、おっさんからの依頼は、子どもたちのためにもなる。続けたいと考えている。しかし、おっさんが続けてくれるのかわからないので、院長と副院長の対応は当然の物だ。
全てを見終わって、おっさんは正面に立っている二人に視線を移す。
「ひとまず座ってください」
「はい」
院長が先に腰を下ろすと、副院長もそれに倣った。
「内容は、大丈夫です。続けてください。安全な範囲で続けてください。内容を読むと、無理している箇所があります」
「はっはい」
胸をなでおろす雰囲気が伝わってくる。院長と副院長は、おっさんが何を求めているのか不思議でならない。自分たちも、失礼が有っては困ると考えて内容を確認したが、これが欲しい情報なのかわからない。わからなかったが、求められている内容には違いはない。そう考えて、恐る恐る持ってきたのだ。おっさんから問題ないと言われて、余計にわからなくなってしまっている。
「なにか?」
そんな雰囲気を悟って、おっさんは院長に質問の形で確認した。
「いえ、問題がないのでしたら・・・」
「大丈夫です。私が望んだ以上の物です。やはり、子供の目線は怖いですね」
「え?」
おっさんは、院長の戸惑う様子を楽しむように、一つの日記を取り出した。
「まーさん様。これは?」
おっさんは、ニコニコしながら、日記の一部を指差す。
「ほら、この部分です」
おっさんが指差した部分は、拙い文章ではあるが、『鍛冶屋で、男の人と女の人が、店員に向かって、この前まで銅貨1枚で買えていたのに買えなくなっていると怒っていた』『5本で銅貨5枚だったのが、3本で銅貨5枚になっている』
「え?」
「子供ならではです。多分・・・」
おっさんは、イーリスを見る。
「あっそうですね。諜報員が調査する事はできますが、鍛冶屋の値段だけを狙って集める必要があります。それだけに集中しなければならないので、難しいのです」
「はぁ」
院長も、副院長も、情報の重要性には気がついていないが、子どもたちの日記が評価されているのは素直に嬉しい。
「さて、お二人には、もうひとつお願いがあります」
「はい」「なんでしょうか?」
おっさんは、お菓子のレシピを孤児院に提供するので、横のつながりがあり、子どもたちのことを想っている孤児院で共有して欲しいと伝えた。ただ、権利に関してはまーさんに近い者が所有する旨を補足した。他の孤児院に提供するときには、”同じ条件で提供する”そして”日記を子どもたちに書かせる”ことが条件として付けられた。
大事な条件の一つに、”レシピ”を使って商売をした場合の売上は、全て孤児院におさめて構わないが、”日記”だけは続けさせることが条件だと言い切った。
おっさんからの条件を聞いた、二人はいきなり立ち上がって、まーさんの手を握って涙を流しながら頭を下げた。
戸惑うまーさんだったが、二人はまーさんに感謝の言葉を伝え続けた。