寮に帰る頃には、真名の頭はすっかりぐちゃぐちゃになっていた。

「浩子先生って――いないの?」

 自分の部屋の椅子にどっかりと腰を下ろす。本人に会えれば万事解決だと、構内を巡ったため足が棒のようになっていた。椅子に座って肉体的には楽になったが、気持ちの方はまるで晴れない。スクナが真名の頭から机の上に飛び移り、心配そうに見ていた。

「真名。大丈夫か?」

「スクナさま……。スクナさまは、もう分かっているのですよね?」

 するとスクナが悲しげに言った。

「真名こそ、もう分かっているのではないか?」

 それでも真名は認めたくないのだ。あがきたいのだ。

 真名はスマホをタップした。

 ワンコールで繫がる。

『はい、こちら「月刊陰陽師」編集部です』

 妙に機嫌のいい声。泰明ではなかった。

「あ、えっと、お疲れさまです。神代です。編集長、ですか」

『おー、真名ちゃん、お疲れー。どうだい、お休みはエンジョイしてくれてるかな? ははは』

 電話の向こうで昭五が高らかに笑っている。

「あの、ちょっとご相談したいことがありまして……」

『ふむ。その様子だと霊能力がらみのようだね』
 と、昭五が笑いを収めた。はい、と真名が答えると、電話の向こうで昭五が泰明の名を呼ぶのが聞こえる。

『もしもし。電話、代わりました。どうした?』

 いつものクールなテンション。いつもの涼しげな声。なぜか知らないけど、真名は涙が込み上げた。

「…………」

『もしもし? どうした? 何があった?』

 真名は目尻を拭き、洟を啜る。

「大丈夫です。ちょっと電波が悪かったみたいで。……泰明さん、いま大丈夫ですか」

『ばたばたしていたが、編集長がまさにいま引き取ってくれた。神代の話を聞いてやれってな』

「ありがとうございます」

 真名は〝栗原浩子〟を巡って陥っている現在の不可思議な状況について話した。雑誌のことも、留美の感想も、講義棟での知り合いとのやりとりも。一通り黙って聞いていた泰明だったが、真名の話が終わるといくつか確認してきた。

『他の専攻の先生だという可能性はないんだな?』

「はい」

『その新聞記事には誰か他に知っている人、特にその栗原先生と同じように、知っていたはずだけど神代以外知らない人がのってたりはしないんだな?』

 泰明の質問に答えようとして、真名は答えに詰まった。

「……きちんと確かめてないかもです」

『ならまずそれを確かめろ』

 一旦切るぞ、といって泰明の方から通話を切った。