すげえなあ、と泰明が感心していると、社務所の中から神職が声をかけてきた。

「あの、もしかして『月刊○○』の倉橋泰明さん……?」

 取材用の某雑誌名と自分の名前を呼ばれた泰明が苦笑する。

「大変でしたね」

「ええ。まあ……でも、おかげで助かりました」

 派手めの女性も、鳥居をくぐって出ていった。最後に残されたコージが腹を押さえながら立ち上がると舌打ちをしながら女性のあとを追った。はたしてどちらのあとを追ったのやら、と真名は白い目で見ている。

「不心得者は入れないようにしたらいいんじゃないですか」
 と泰明が神職に尋ねた。

「恋愛のパワースポットとしてマスコミやネットで取り沙汰されてからは、いろんな人が来るようになりました。一般的な人がお持ちの神社や神主、巫女のイメージがあるので、厳しい対応もできずときには困惑することもあります」

「なるほど」

 だが、神職はにっこり笑う。

「それでも、私たちは最後は神さまのお力を信じています。さっきみたいなのも、ご祈祷されたがゆえにあの人たちの本当のご縁のあり方があぶり出されたのだと思います。それは当事者さまにとってはつらいことかもしれませんが、それも受け入れていただけるご縁があるから、お参りやご祈祷をいただいたんだと思うんです」

 それが現代でのパワースポットというあり方の側面ではないか、と神職は付け加えた。
「うん、うん。がんばってるのじゃ。スクナも応援するのじゃ」と真名の頭上のスクナが機嫌のよい声を上げている。

「あの、パワースポットとか言って、信仰心のない人たちが御利益ばかりをねだって、たくさんやってくるのはあまり神社としてよろしくないのではありませんか」
 と真名がおずおずと尋ねる。神職は苦笑した。

「ええ。ただ、ここを聖なる場所だと思っていただける方には来ていただきたいですし、逆にここに来て神さまへの信仰に目覚める方もいるかもしれないですから」

 この神職の態度でいいのだろうか、と真名が心の中で疑問すると、スクナがすぐに答えた。

「この者としては精一杯やっているのだろう。ただ、神さまの中には違う意見の者もいらっしゃる。人間と神さまの意見なら、神さまの意見の方が重いのじゃよ」

 単なる流行りとしてではなく、また宗教的な聖地であるだけでもない〝パワースポット〟という存在が真名の中でぐるぐると回っていた。

 ビルの隙間から差し込む西日が、真名の目を刺し貫く……。