「あなた、誰? 関係ないでしょ?」

「えっと、何と申しますか……」

「関係ないことはないのじゃ。天照大神はスクナたち神々の頂点の太陽神。その神域での無礼は許さないのじゃ。――よいか。ここは縁結びの場所。神さまとの縁を結ぶ場所じゃ。そうして信仰心を持った者同士をも結びつけるために人と人との縁結びも請け負う。その考え方を現代風に広げて恋愛成就も大目に見ている」

 スクナの話は続いた。ロングカーディガンの女性の怒りとスクナの熱弁に挟まれ、真名は頭がくらくらする。

「あの、神社の恋愛成功なわけですから、神さまから見て〝ふさわしくない相手〟となら別れさせることも、神さまの側としては、あなたを守れたという〝成功〟なわけで……」

 真名がしどろもどろになりながら何とか言葉を繋いだ。

 そのときだ。

 さっきまで怒り満ちていたロングカーディガンの女性の顔が、不意に歪んだ。

「そんな……そんなこと……うわああああん、コージぃ……」

 清楚な見た目の女性だったが、身も蓋もなく顔をぐしゃぐしゃにして泣き出したのだ。大きな口を開けて、涙と鼻水とよだれとでせっかくのきれいな顔を台無しにしながら……。

「あ、そんな」と真名の方が泣かせてしまったとうろたえる。

 横で泰明がため息をついた。

「――ほんとはこの人、気づいてたんだろ。恋愛の祈禱のせいではないって」

「え?」と真名が泰明を振り返る。しかし、返答は、泣いているロングカーディガンの女性から来た。

「そうよ……。その男の言う通りよ。自分でもどこか無理してる気はしてたよ? けど、好きだったんだもん。だからお参りだってしたんだもん。お金なんて別にいいのよ。コージさえ帰ってきてくれれば。……うわああああん」

 またロングカーディガンの女性が泣き出した。巫女も神職も沈鬱な顔でうつむくばかり。泰明は頭を搔いて違う方を向いている。真名はおろおろするばかりだった。

「真名よ、真名よ」とスクナの声がする。
「ちょっと面白いことが起きるかもしれんぞ。鳥居の所を見てみろ」