女性の声が大きい。だから真名たちにも聞こえたのだが――。

「おいおい。祈祷料は神さまへの感謝であって、対価とか代金とかじゃないぞ」
 と、泰明が辟易したように言った。
 真名が慌てる。
 泰明の声は小声だったし、女性もクレームに夢中だったので泰明の声は聞こえなかったようだった。聞こえたら揉めるよねと思っていると、泰明がわざわざその女性に近づいていく。

「ちょ、ちょっと泰明さん!」

「あ?」

「あの、やめてくださいね?」

 泰明が怪訝な顔をした。

「何が」

「変なクレームとかつけるの」

「変なクレームつけてるのはあの女の方だろ。神職とはいえ、いや神職だからこそ、怒らないもの、言い返さないものと思って好き勝手言ってるんだろ」

 泰明の言っていることは正しいのだが……。

 真名がどうしようか困っていると、頭の上からスクナがいつになく凜々しい声を上げた。

「泰明の言う通り、スクナもアレはいけないと思うのじゃ」

(お気持ちは分かりますが……)と、なだめようとしたらスクナがヒートアップした。

「何の罪もない神職を困らせおって。真名、あの女に初穂料の何たるかをきちんと教えてやれ」とスクナがやる気に満ちてくる。

「ええ!?」

 真名が思わず絶叫してしまい、その女性が振り返った。固まる真名。

「大丈夫じゃ。スクナが言うべき言葉を教えてあげるから」

 そうじゃないんです、と言いたかった。すでにロングカーディガンの女性がこちらを睨んでいる。

「何か?」

「いいえ……」
 と真名が言い淀むと、頭上でスクナが子供らしい声で毅然と言い切った。

「初穂料とはそそもそも神さまへの感謝の心じゃ。この大和の国で生きとし生けるものの恩恵と日の光と水と空気を与えられたことへの感謝の現れじゃ。それを返せとは無礼千万じゃ」

 さすが、スクナは神さまである。
 声は子供なのに、その気になったいまは抗いがたい神威があった。

〝言え、言え〟という霊圧がすごい。

「あー、あのですね……祈願のお金って、神さまへの感謝ですから、戻せっていうのは――ちょっと……違うのではないかと……」

 真名が何とか当たり障りない言葉に翻訳を試みた。真名を――性格には真名の頭の上辺りを――ちらりと見た泰明が目を見開く。いつも氷結美男子の泰明がそんな顔をするのを初めて見た。
「おお、スクナ様が燦然と輝いている」とか呟いている。