「いま聞こえただろ? 肥後国の物を買いに行くんだ」
追いついて会話をはじめたからといって泰明の歩調が遅くなりはしなかった。
「――まさか、いまから熊本ですか」
と真名が本気で尋ねると、たいそう残念なものを見る目つきで真名は見下ろされる。
「おまえひとりで行くなら止めないぞ」
「どこへ行くんですか」
「銀座。熊本県のアンテナショップがある」
真名は安心した。それと同時に軽くイラッとする。行き先くらい言っても罰は当たらないだろうに。
銀座につき、熊本県のアンテナショップに入ったところで、泰明の動きが止まった。無言で店内を見渡し、ゆっくりと中に入る。真名も泰明の後ろについて店内に入ると、確かにこれは迷うだろうと思った。
「何を買えばいいんでしょうね」
「戦国時代から江戸時代の初め辺りからある物の方がいいのだろうな」
と泰明が壮大な指定をする。真名は眉をしかめたが、気を取り直すとスマホをいじった。しばらくスマホを操作し、真名はアンテナショップの奥へ進んでいく。ごく目立たない棚に少しだけ置いてある食べ物を真名は手に取った。
「これにしましょう」
真名がきっぱり言い切ると、泰明は最初、不思議そうな顔になった。真名が理由を説明すると泰明は小さく頷く。いいんじゃないか。ドS陰陽師らしいぶっきらぼうな物言いだったが、真名には絶賛に聞こえた。