先日の占星術部の話だった。すでにページレイアウトソフトに流し込まれていて、雑誌の段組になっている。イメージ写真も入っていてほぼ完成状態だ。

「何を見ればいいんですか」

「内容。一応、大学と人名を特定されないようにしているけど、削ってほしい表現があったら教えろ。あと、内容的に気になったところがあれば、それも」

 真名が泰明の書いた文章に意識を集中させる。最初の数行でちゃんと状況説明が終わっている。「いつ・どこで・だれが・なにを・どのように・どうした」――いわゆる5W1Hと呼ばれる文章の基本がしっかりできているのだ。性格には難ありのドS陰陽師だが、仕事はしっかりしている……。

 真名がじっくり記事に目を通している間に、昭五と泰明が何度か席を立った。パソコン島で作業をしたり、同じくパソコン島の律樹と打ち合わせをしたりしている。特に泰明が席を立つときは二回に一回は律樹と揉めていた。

「読みました」と真名が原稿から顔を上げる。少し涙が浮かんでいる。
「すごくいい文章でした。感動しました」

 記事はルポ形式の三人称だ。泰明が言っている通り、真名の大学とは分からないし、出てくる女子学生は留美とは特定できないようになっているのに、具体性に乏しいわけではない。しかも出てくる人間の心の動きを的確に捉えていて、なぜ留美は水晶玉リーディングに深く入っていったかが自分のことのように迫ってきた。

 真名の感想に、パソコン島の律樹が笑う。

「あははは。感動したってさ。よかったね、やすあ」

〝き〟まで律樹は言えなかった。泰明が指を鳴らして律樹をフリーズさせたからだ。昭五が「泰明く~ん」と情けない声を出すので、泰明が舌打ちと共に律樹を再起動させた。

「おい、泰明。いちいち僕を止めるなよ!」

「いちいちくだらないことに反応するおまえが悪い」

「くだらないことって何だよ!? 真名ちゃんが感動したっていってくれて、いい話じゃないかよ」

 すると泰明は真名の方に振り向いた。

「感動した、なんて読者の感想だけではなく、文字や表現の校正はしてくれたんだろうな?」

「はいっ」

 例によって真名へ巻き添えが来て、真名は直立した。ちなみに原稿に対して真名からの校正指摘はない。

 すると編集長席の昭五が別の記事を真名に見せた。

「真名ちゃん。ちょっとやってほしいことがあるんだけど」

「はい、何でしょうか」

 真名は軽やかに昭五の側へ急いだ。おかげで泰明のお怒りに触れなくて済むからだった。泰明が獲物を逃がして舌打ちしている。

 昭五が持っていたのは例のパワースポット特集の紙束だった。
 一箇所、赤ペンでバツがついている。
「パワースポットは神の聖域である」――記事の終わりの写真に添えられる、総括の文言だった。

「これさ、私が考えたんだけど、間違っていないんだけどこれだけじゃしっくりこなくてさ。これ、真名ちゃんに考えてほしいんだけど」

「ええ!?」と真名が驚きの声を上げる。
「これって、特集記事の最後のシメですよね!?」

「うんうん。そうだね」

「それって大事ですよね!?」
 と真名が言わずもがななことを訊くと、昭五がにこやかに何度も頷いた。

「うんうん。とっても大事。だから真名ちゃんにお願いしたいの」

 どうしよう――。真名は不安になって周りに視線をさまよわせる。ちょうど泰明と目が合った。

「やれよ」と、泰明が短く言う。

「やって、いいんですか?」

「いつかはやらなきゃいけないことなんだから、やれよ」と、そこで止めてくれればいいものを、一言付け加えた。
「たった数行なんだから、よっぽどひどいのでない限り誌面の影響は少ない」

 その通りかもしれないが、何となくかちんとくるのが真名である。

「そうですねっ。やらせていただきます」

 真名が強めの口調で答える。売り言葉に買い言葉といった勢いだ。

「うんうん。いいね、いいね。ついでだから真名ちゃんに、パワースポットに行ってきてほしいんだよね」

 取材して実体験して感じたものを言葉にしてほしい。昭五はそう言って真名に微笑んだ。場所は都内にあるふたつの有名〝パワースポット〟だった。