「うっわぁー……」

 思わず嫌悪感を含んだ声を出してしまい、周りに白い目で見られた。真名は恥ずかしくなって首を引っ込める。

 姉御肌の颯爽とした院生の身体中におびただしい数の虫と爬虫類がしがみついていた。特定のあやかしではないと思う。しかし、これだけの数の虫や爬虫類の憑依を背負うとはどういうことなのか。

「ぱわーすぽっと巡りとやらをしたせいじゃよ」
 とスクナが真名の心の中の疑問に答えてくれた。

(パワースポットって神さまのお力をいただけるんじゃないんですか)

「基本はそうじゃ。ただそれは信仰心ある者が正式な作法に則って参拝した場合じゃよ。真名だって、見ず知らずの人が横柄な態度で家に来て食事を要求してきても従わんじゃろ? ましてや家を積極的に荒らしに来たヤツならどうする?」

{警察を呼びます}

 スクナが頭の上から机――真名の目の前に飛び降りた。

「スクナたちがあのような虫や爬虫類の邪霊をけしかけるのではない。参拝する者の心が違っていれば、その心に応じた答えが与えられる。あの大量の虫と爬虫類の邪霊は、あの女が神々へ抱いている疑いと嘲笑がそのまま跳ね返った姿じゃよ」

 壇上ではそんな憑依を背負っているとは無自覚な院生が次々と日本各地のパワースポットの写真をホワイトボードに写して、「これも噓、ここも科学的に偽物」と説明している。その表情が真面目であればあるほど、真名には何とも心が痛んだ……。

 そのときふと、真名は現在、絶賛入稿準備中の「月刊陰陽師」の特集記事を思い出した。バッグから台割を取り出し、確認する。今月号の特集は「決定版・パワースポット対策――ここを護れば霊場は荒らされない」。

 出来上がったあかつきには、この特集だけでもコピーで渡せないだろうか。根がお人好しな真名はそんなことを考えている。

 隣の教室では何をやっているのか、どっと学生たちが笑う声がした。