占星術部のぼや騒動の原因を突き止めて三日後、真名は「月刊陰陽師」編集部のレーザープリンタから吐き出される無数のページ見本と四苦八苦していた。

「真名ちゃーん、この校正記号、向きが逆だよ~」
 と、律樹がパソコン島で軽い声を上げている。真名が、校正の指示を記号化した校正記号を書き込んだページ見本が間違っていたのだった。

「きゃー、すみませーん」

 真名が慌てて自分の席から立ち上がり、律樹の席へ急ぐ。今日の編集部には珍しく昭五も含めて全員が集合している。そろそろ入稿日が近づいてきているからだ。

 パソコン島では、背もたれに思い切り状態を預け、反り返るような姿勢でマウスとキーボードを操作しながら、律樹が片方の目をつぶる。

「ま、慣れないうちはこんなもんさ」

「すみませんでした」と真名がしょげる。

「人は失敗を通して大きくなるのじゃ。どんと構えておればよい」
 とスクナがひょっこり現れて真名を励ました。スクナ的にはいまは真名のピンチと認定したらしい。

「でも、今日一日ですでに三回目の校正記号間違いです……」

「……どんどんいくのじゃ」

 自分の席で原稿――某女子大占星術サークルのぼや騒動――を書いていた泰明が顔を上げる。

「校正されることなしに一発でデザインを仕上げない律樹が悪い」

「ちょっと待て、泰明。いまの一言はすべてのデザイナーを敵に回したぞ。そんな一発で完璧な者が仕上がるならもう神さまだよ。人間じゃないって。そんなことが可能ならそもそも校正記号なんて存在しないよ?」

「俺はおまえに限定して言っている。その口数の多さを少し減らしてついでにミスも減らせ」

 律樹が口をへの字にしている。

「ったく、真名ちゃんには甘いんだから」
 という律樹の言葉に、真名は「え?」とか思う。ちょっと頰が熱くなった。護ってくれたのだろうか……。

 律樹の減らず口に対して、泰明は指を弾いた。途端に律樹がフリーズする。

「泰明くーん。律樹くんを止めちゃうと仕事が滞るからやめて~」
 と昭五が情けない声を発した。例によって頭は爆発している。泰明はため息をついてもう一度指を弾き、式神の律樹を再起動させた。

「んだよ、泰明。図星かよ」
 と、よせばいいのに律樹がさらに茶化そうとする。

「ああ!?」

 人を殺せるような目つきで泰明が聞き返した。

「何でもありません」と律樹が直立し、敬礼している。

 やっぱり泰明さんは怖いかも、と真名が思ったら、その念が伝わったのか、泰明が真名のことまで睨んできた。

「神代もよく使う校正記号はさっさと覚えろ」

「はいっ」

 真名は冷や汗を吹き出しながら背筋を伸ばした。


 本日の学び――ドS陰陽師は締め切りが近くなるともっと激しくなる。