寺沢の家路につく姿を見送りながら占い師の若い男が被っていたカツラを取る。明るい茶髪と、占い師には不釣り合いな整っていながら軽そうな顔が現れた。占い師に扮していた若い男――律樹が苦笑している。

「やれやれ。馬鹿だねえ。式神の僕に両親なんて最初っからいないのに」

「人間か式神かを見抜けなかった段階で、プロ霊能者失格だ」と泰明が冷たく言った。

「それにしても三十七の呪術とは気張ったねぇ」
 と律樹が笑うと、昭五も声に出して笑った。

「くくく。正直なところいくつ呪術をかけたのか、覚えていませんよ。久しぶりに全力を出していいとお坊ちゃまから――泰明さんから言われてうれしかったもので」

「〝三十七の呪術をかけ、三十八個目で帰らせた〟というのが、言ってみれば三十九個目の呪術かもしれないな」と泰明があくびしている。

 昭五がすっかりいつもの人の好い顔に戻って言った。

「それにしても、泰明さんはおやさしい」

「あ?」

 昭五の意外な言葉に、泰明は変な声が出る。

「だってそうでしょ? 泰明さんはぼやの真犯人が誰か分かっていた。けしかけた顧問を懲らしめてやりたいけれども、騙された女子大生の気持ちを考えるとかわいそうにも思うし、呪術の闇の面をあの明るい真名ちゃんに見せるのもできれば避けたい。だから、真名ちゃんのスマホを切るや、男三人で汚れ役の計画をすぐさま考えたんでしょ?」

 昭五の勘ぐりに泰明は嫌悪感を丸出しにした表情でこう言った。

「倉橋の名において、美馬昭五の霊能力は天気予報以外また封印」

「そんなぁ~」

 昭五が情けない顔をしている。

「くだらないないことを言った報いだ。――あと、俺と律樹の時間外労働分の給料、がっつり請求させてもらうので」

「あはは。さすが泰明。ついでに危険手当もつけてもらおう」

「ええー……」

呪術でもなく、燃える炎でもなく、昭五の情けない声が一件落着のしるしだった。どこかで酔っ払った女性の高い笑い声が聞こえてきた。