「私、祖母がタロットをしていたなんて話してないですよね?」

『だからご本人がそうおっしゃってるんだ』

 本人しか知らないことを言い当てられて、留美が驚いているのだった。占いの世界に知見はあった留美だが、霊的な事柄全般が詳しいわけではないからだ。

「祖母の霊がそう言っている……。いわゆる〝守護霊〟みたいなものですか?」
 と、留美が質問すると泰明が首を横に振った。

『違う。守護霊というと死んだおばあさんだとか、ひどいのになると魚とか犬とか言い出すけど憑依霊と区別がついていないか、ただの勘違いだろう。本当の守護霊は自分の前世の魂――心理学で言えば潜在意識の一部――だ。霧島さんのおばあさんの場合は天国に還っているようだから、憑依霊ではなけれど』

「じゃあ、どうして祖母が……?」

 真名は留美の目を見て強く言い切る。

「おばあさん、留美さんのことを心配しているんだよ」

「私を、心配して……」

「おばあさんって、どんな人だったの?」と真名が聞いた。

「いま泰明さんがおっしゃった通り、タロット占いがすごく上手でした。占い師として生計を立てていたわけではないのですけど、知り合いの社長さんや政治家の人なんかがときどきやってきて、祖母に相談をしていたのは知ってます」

「おばあさん、すごい人だったんだね」
 と真名が言うと、留美が少しだけうれしそうな顔を見せる。

『おばあさんの話によれば、一人だけの孫なんだろ? 霊的な悟りを深めて霊媒体質を克服する道あるけれど、それにはきちんとした心の修行を指導できる死につかなければ無理だ。水晶玉リーディングはやめてほしいし、できればこのサークルも辞めてほしいらしいぞ』

「はい……」

 泰明の言葉に留美が洟を啜った。きちんと祖母の言葉として留美に伝わっているようだ。

『まあ、精神統一だけで霊媒として深く入れるのはすごいことだから、霊能者の才能はあるのだと思う。おばあさんの言葉に従ってスクライングのような水晶玉を使った精神統一は慎んでサークルを辞めるか、本気で霊能者を目指すか、決めろ』

 霊能者を目指すならしかるべき師を紹介する、と泰明が留美に選択を求めた。しばらく考えて、留美は顔を上げた。

「私、サークルを辞めます。おばあちゃんみたいに、自分でできる範囲でタロット占いでがんばります」

 留美がそう言うと、留美の背後に立っていた祖母の霊が涙をこぼした。どこから取り出したのかハンカチで涙を拭きつつ、スマホの画面の中の泰明や真名に頭を下げている。

『おばあさん、それでいいって、喜んでるぞ』

 その言葉に留美が笑いながら涙をこぼした。

「おばあちゃん……」

 留美の目には見えないけれども、後ろに立っている祖母の霊が留美の頭を撫でている。それを見ている真名も胸が温かくなる光景だった。サークルを辞めるという結果は残念だったかもしれないけれども、死してなお、自分の孫を心配している祖母とその祖母の心を受け止められた留美の姿が眩しく見える。

『神代もよくやったな』

 今度ははっきりと褒められた。

「ありがとうございました。泰明さんのおかげです」

『事件の原因探究だけではない。留美さんの心に寄り添ってやったことだ』

「――! ありがとうございます」

 とてもうれしかった。声が弾んだ。スマホが切れた。

 差し込んだ西日が部室の中を赤く照らしていた。