「真名へ

 そろそろ就職活動の時期だね。
 陰陽師の家系のせいでいろいろ苦労していると思う。
 お父さんもお母さんもそうだった。

 けど、いまは昔と違って社会が複雑になって、知らないうちに憑依霊を持っている人は格段に増えているから、真名の方がきついだろうね。

 それでも、社会に出なければいけない日はやってくる。

 陰陽師になるにせよ、普通の社会で生きていくにせよ、社会に出るための準備、霊的なものが分からないこの世にうまく慣れるための一環として、知り合いの編集者のところでバイトしてみたらどうだろう。

 真名は小さい頃から本が好きだったし、編集者なら興味モデルのではないかな? お父さんからも連絡しておくので、問い合わせてみなさい」


 そのあとに、連絡先が書いてあった。まずメールで問い合わせるといいと手紙にある。ところが、問題はその雑誌名だった。

「月刊陰陽師」……。

 月刊というのだから月刊誌なのだろうが、はっきり言って聞いたことがない。

 陰陽師の家であることを踏まえて紹介するバイト先なのだから、コンビニやファミレスとは行かないだろうと思っていたが、これはパンチが効いていた。
 あまりにも直球な雑誌名で怪しすぎるのだが、父が紹介する以上、ちゃんとしているのだろう――と信じたい。
 父も一流の陰陽師だ。ちゃんと占をした結果として、いま自分にバイトを勧めているのは間違いないはずだった。

「月刊陰陽師」の連絡先のあとに、「追伸・おまえに守り神を授けよう。同封した霊符を使ってみなさい」とあった。

 真名は霊符を手に取る。複雑な文様が書かれていて、いまの真名には読み解けない。

 父は気軽に追伸を書いてくれていたが――真名は霊符を扱えない。

「これ、どうしたらいいの……?」

 使用書とか何かないかと手紙の裏を見たり封筒を覗くが、何もない。お父さん、私が霊符を使えないって忘れちゃったの?

 真名は霊符を表にしたり裏にしたりして眺めるが、何も起こらない。額に当てても無反応。頭の上にのせてみたが何ともない。っていうか、何やってるんだろう、私。

 持っていて嫌な波動は伝わってこないから、悪い霊符ではないだろうとは分かったけど。

 額に手を当てて考え込む。……妙案浮かばず。

「ほんと、これ、どうしたらいいのよ!?」