「えい、えい、えいっ」

 スクナがかわいらしくも気合いの入った声を発する。

『どうされたのですか』と真名が心の中で尋ねるとスクナが珍しく真剣な声で答えた。

「邪霊どもが近寄ってきておる。部屋の外に満ちてきたわ。まあ、スクナの力でしばらくは入ってこられまい」

 ぎょっとなって真名が扉の向こうに目を向ける。木の扉越しにびりびりとする邪気が感じられた。どうしよう。私、祓えないのに……。

『真名、うろたえるな。俺がいる』

「泰明さんがいるって、外じゃないですか」

『忘れたのか。写真でも通じるんだぞ。だったらビデオ通話が俺自身と通じないわけないだろ』

 言われて真名は理解した。ビデオ通話とはいえ、泰明は霊的にここにいるのと同じなのだ。心強い――その感覚を理解したとき、真名は心の中が少しむずがゆくも温かくも感じた。

「あの、何かあったのですか」と留美が怪訝な表情をしている。

『大丈夫だ。――ところで霧島さん。原因は鬼火でもなんでもなく、収斂火災だったと分かっても、俺はこの出来事をうちの雑誌の記事にしたいと考えている。それがどういうことか分かるか』

「……何か霊的な障りが影響している、ということですか」

『そう。たぶんそれを取り除かないとこの部室は戻ってこないし、サークル活動も再開できない。そのためには霧島さんの協力が不可欠だ。少し面倒かもしれないが付き合ってくれるか』

 留美は勢いよく立ち上がった。

「はい。先輩から受け継いだサークルと部室、私の代で潰したくないですから」

 泰明は留美のスマホを真名に預けさせる。録画は続けろ、という意味だった。

『それでは水晶玉を使ってリーディングをしてくれ』

 留美が泰明の言葉に困惑する。

「あの、泰明さん。私、水晶玉の占いはまだ不得意で……」

『じっと見つめて精神を統一するスクライングでいい。やってくれ』

 留美がちょっと困ったような顔で真名を見た。真名が小さく頷くと、留美は水晶玉を前に姿勢を正す。人前だとちょっと恥ずかしいかも、と呟きつつも呼吸を整え始めた。留美の心が平和になっていくのが真名にも分かる。精神統一の深さで比べたら、真名よりも留美の方が修行を重ねているかもしれない。

 深い呼吸がやがて普通の呼吸に戻っていった。

 留美の瞳の焦点が水晶玉に固定され、表情が脱落する。

『――霧島さん?』と泰明が静かに問いかけた。答えはない。

「深い精神統一に入っているんですね」と真名が声を潜めた。

 やはり、留美はぼんやりした表情のまま水晶玉を見つめている。