『真名、どうした? スマホ越しにびりっときたが』
何か異常を察知したのか、泰明の声がした。
「この水晶玉を見た途端に、私もなぜか鳥肌が立って……」
真名がそう言うと、留美が少し色めき立つ。
「この水晶玉は怪しいものではないと思うのですが」
留美の抗議を泰明は無視した。
『真名、水晶玉をじっくり見せてくれ』
カメラ部分を近づけて水晶玉の映像をいろいろな角度から泰明に送る。泰明は両手を前に広げて、目だけではなく手のひらでも水晶玉を見ようとしているような姿勢を見せた。
『真名、黒い紙は持ってきたな? それから霧島さん、動画の準備を』
こちらも、はいと頷いてバッグから黒い色画用紙を出す。同時に留美も自分のスマホを取り出した。こちらはこれから起こることを撮影するためのカメラ代わりだ。
「これから何をするのですか」
という真名の質問には答えず、泰明が自分の話を進めた。留美が録画を始める。
『ネットで調べたら、火事のあった日は晴れだった。今日も晴れていると思うが』
「はい。ぼやの日と同じくらい晴れています」と留美。ちなみに部室を調べるのを今日にしたのは〝お天気陰陽師〟昭五のお天気占いによるものだった。
『それでは真名、黒い紙をカーテンの辺りへ置いて。それから水晶玉はいまの場所ではなく、差し込んでくる光を取り込むようにして』
「そんなことしたら、危ないじゃないですか」
真名が思わずそう言うと、画面の泰明がにやっと笑った。
『何が危ないんだ?』
「そんなことしたら、レンズで太陽光を集めたときみたいになって……あっ」
真名もそのことに気づいたらしい。
『そう。水晶玉に集まった太陽の光がカーテンに焦点を結び、火がついた』
泰明の説明に留美も驚愕の表情を浮かべる。理屈が読めた真名は、水晶玉を動かして黒い紙に太陽の光を集める。一点、肉眼で直視できないような場所が生まれ、すぐに白い煙と焼き芋にも似た香ばしい匂いが立ちこめた。
黒い紙に小さく白い炎がつく。
「泰明さん、火災報知器が作動するといけないので消します」と真名が水晶玉を黒い紙から離し、紙を叩いて火を消した。
留美が、まだ匂いがする焦げて穴が開いた黒い紙を手に取る。
「こんなに簡単に火がつくんですね」
録画をまだ止めないように泰明が指示し、説明を続けた。
『収斂火災という。太陽光がレンズ状の物で一点に集まって引火させる。虫眼鏡で太陽の光を集めて火をつける実験を小さい頃にやったりするかもしれないな』
「虫眼鏡とかレンズで太陽を見てはいけない本当の理由ですよね」
『そういうことだ。虫眼鏡、レンズの他にも水が入った水槽もあぶない。――そして、水晶玉もな』
留美が椅子に腰を下ろして白い顔をしている。
「仮にこの水晶玉が火災を起こしたのだとしたら、一体どうやってですか。水晶玉はロッカーにしまわれていて、鍵は私しか持っていませんでした」
「その日に限って出しっぱなしだった、ってこともないんですもんね」
と真名が続ける。仮に出しっぱなしだったとしても、机のではカーテンに引火させることは難しいだろう。
そのときだった。真名の頭上でスクナが柏手を打った。
何か異常を察知したのか、泰明の声がした。
「この水晶玉を見た途端に、私もなぜか鳥肌が立って……」
真名がそう言うと、留美が少し色めき立つ。
「この水晶玉は怪しいものではないと思うのですが」
留美の抗議を泰明は無視した。
『真名、水晶玉をじっくり見せてくれ』
カメラ部分を近づけて水晶玉の映像をいろいろな角度から泰明に送る。泰明は両手を前に広げて、目だけではなく手のひらでも水晶玉を見ようとしているような姿勢を見せた。
『真名、黒い紙は持ってきたな? それから霧島さん、動画の準備を』
こちらも、はいと頷いてバッグから黒い色画用紙を出す。同時に留美も自分のスマホを取り出した。こちらはこれから起こることを撮影するためのカメラ代わりだ。
「これから何をするのですか」
という真名の質問には答えず、泰明が自分の話を進めた。留美が録画を始める。
『ネットで調べたら、火事のあった日は晴れだった。今日も晴れていると思うが』
「はい。ぼやの日と同じくらい晴れています」と留美。ちなみに部室を調べるのを今日にしたのは〝お天気陰陽師〟昭五のお天気占いによるものだった。
『それでは真名、黒い紙をカーテンの辺りへ置いて。それから水晶玉はいまの場所ではなく、差し込んでくる光を取り込むようにして』
「そんなことしたら、危ないじゃないですか」
真名が思わずそう言うと、画面の泰明がにやっと笑った。
『何が危ないんだ?』
「そんなことしたら、レンズで太陽光を集めたときみたいになって……あっ」
真名もそのことに気づいたらしい。
『そう。水晶玉に集まった太陽の光がカーテンに焦点を結び、火がついた』
泰明の説明に留美も驚愕の表情を浮かべる。理屈が読めた真名は、水晶玉を動かして黒い紙に太陽の光を集める。一点、肉眼で直視できないような場所が生まれ、すぐに白い煙と焼き芋にも似た香ばしい匂いが立ちこめた。
黒い紙に小さく白い炎がつく。
「泰明さん、火災報知器が作動するといけないので消します」と真名が水晶玉を黒い紙から離し、紙を叩いて火を消した。
留美が、まだ匂いがする焦げて穴が開いた黒い紙を手に取る。
「こんなに簡単に火がつくんですね」
録画をまだ止めないように泰明が指示し、説明を続けた。
『収斂火災という。太陽光がレンズ状の物で一点に集まって引火させる。虫眼鏡で太陽の光を集めて火をつける実験を小さい頃にやったりするかもしれないな』
「虫眼鏡とかレンズで太陽を見てはいけない本当の理由ですよね」
『そういうことだ。虫眼鏡、レンズの他にも水が入った水槽もあぶない。――そして、水晶玉もな』
留美が椅子に腰を下ろして白い顔をしている。
「仮にこの水晶玉が火災を起こしたのだとしたら、一体どうやってですか。水晶玉はロッカーにしまわれていて、鍵は私しか持っていませんでした」
「その日に限って出しっぱなしだった、ってこともないんですもんね」
と真名が続ける。仮に出しっぱなしだったとしても、机のではカーテンに引火させることは難しいだろう。
そのときだった。真名の頭上でスクナが柏手を打った。