いまから数日前のこと。
ちょうど、真名が「月刊陰陽師」編集部の仕事をしていた日のことだ。
授業が一コマ休講になった留美はひとりで落ち着いた時間を取ろうと、部室に入った。
占星術部の部室はそれほど広くない。
文化系で少人数サークルだから最低限の広さの部室をあてがわれているだけだ。
けれども、留美はそれで満足していた。
大教室のような広い部室では占いの気分にならない。
昨年までは部員が五人いたのだけど、皆卒業してしまい、留美と、サークルを維持するための名簿上の部員四人だけ。
早い話が留美だけの部室だった。
「いやー、落ち着くよねー」
と、留美は部室のカーテンを閉め、雰囲気のある電気のランプをつけた。
ロッカーにはより深く占いに入れるようにローブもあるが、九十分の空き時間だからいまは着替えない。
鍵のかかる棚から大事なタロットを取り出し、さらに水晶玉を机の上に並べた。
「かわいいタロットちゃんだねぇ」
タロット占いは中学生の頃からやっている。
部員が実質自分だけになってしまって、家から持ってきた私物で、使い込んであった。いろいろな声も聞かせてくれる。
水晶玉は高校から始めた。
スクライングという、物体を凝視して心を集中させることで幻視を得る練習をしているが、なかなかうまく成果を実感しない。
ただ、集中力はあるから気がつけば一時間くらい平気で水晶玉を見つめていた。
「水晶玉でリーディングできたら、いいなぁ」
と、ひとりでぶつぶつ呟きながら呼吸を整える。
卒業した先輩は逆に水晶玉によるリーディングは得意だったがタロットは苦手だった。
もっとも、その水晶玉リーディングも部活顧問の寺沢和子助教が指導してくれたからできるようになったと言っていたから、いつか教えてもらいたいと思っている。
けれども、寺沢は最近、教授会の手伝いで忙しいらしく、部活にほとんど顔を出さない。
高校と違って大学の文化系部活に顧問が顔を出すのはまずないのだろうけど。
集中に入る前にスマホのアラームを用意する。
準備が整い、留美は水晶に意識を集中させた。
……………。
軽やかなアラームが鳴った。
はっとなってアラームを止める。やはり留美はどっぷりと瞑想に入っていたらしい。
「今日も何も見えなかったなあ」
細切れの時間では成果は上がらないのだろう。今度の休日にゆっくり時間を作ろう。
水晶玉とタロットをしまい、ロッカーの鍵を閉めた。
鍵は留美だけが持っている。
留美は戸締まりを確認すると次の授業の教室へ急いだ。
その数時間後、大学の構内に消防車サイレンが鳴り響いた。
占星術部の部室から火が出た、という。隣の部室にいた学生がすぐに煙に気づいてくれて消火器とマスターキーを持って駆け付けてくれたのですぐに消し止められた。
おかげでぼやで済んだものの、当分の間、部室は使用禁止。占星術部のサークル活動もストップがかかってしまった。
問題は燃えたものだ。
火がついて焼けてしまったのは、は部室のカーテンと留美のタロットカードだった。
消防署の話だと、カーテンの側にタロットカードがあり、カーテンに引火した火がタロットカードにも燃え移ったようだ、とのことだった。
他には被害はない。ロッカーの中にあった過去の部誌などはひとつも燃えていない。
留美はぞくりとした。長年親しんできたタロットカードを失ったことが留美にはひどくショックだったこともあるが、それ以上にとても重大な事があったからだ。
タロットカードは水晶玉と共にきちんとロッカーに入れて鍵をかけていたはずなのだ。
しかも、その鍵は留美自身がいまも持っている。
誰かに貸したこともない。
だとしたら、どうやってタロットカードは燃やされたのだろうか……。
ちょうど、真名が「月刊陰陽師」編集部の仕事をしていた日のことだ。
授業が一コマ休講になった留美はひとりで落ち着いた時間を取ろうと、部室に入った。
占星術部の部室はそれほど広くない。
文化系で少人数サークルだから最低限の広さの部室をあてがわれているだけだ。
けれども、留美はそれで満足していた。
大教室のような広い部室では占いの気分にならない。
昨年までは部員が五人いたのだけど、皆卒業してしまい、留美と、サークルを維持するための名簿上の部員四人だけ。
早い話が留美だけの部室だった。
「いやー、落ち着くよねー」
と、留美は部室のカーテンを閉め、雰囲気のある電気のランプをつけた。
ロッカーにはより深く占いに入れるようにローブもあるが、九十分の空き時間だからいまは着替えない。
鍵のかかる棚から大事なタロットを取り出し、さらに水晶玉を机の上に並べた。
「かわいいタロットちゃんだねぇ」
タロット占いは中学生の頃からやっている。
部員が実質自分だけになってしまって、家から持ってきた私物で、使い込んであった。いろいろな声も聞かせてくれる。
水晶玉は高校から始めた。
スクライングという、物体を凝視して心を集中させることで幻視を得る練習をしているが、なかなかうまく成果を実感しない。
ただ、集中力はあるから気がつけば一時間くらい平気で水晶玉を見つめていた。
「水晶玉でリーディングできたら、いいなぁ」
と、ひとりでぶつぶつ呟きながら呼吸を整える。
卒業した先輩は逆に水晶玉によるリーディングは得意だったがタロットは苦手だった。
もっとも、その水晶玉リーディングも部活顧問の寺沢和子助教が指導してくれたからできるようになったと言っていたから、いつか教えてもらいたいと思っている。
けれども、寺沢は最近、教授会の手伝いで忙しいらしく、部活にほとんど顔を出さない。
高校と違って大学の文化系部活に顧問が顔を出すのはまずないのだろうけど。
集中に入る前にスマホのアラームを用意する。
準備が整い、留美は水晶に意識を集中させた。
……………。
軽やかなアラームが鳴った。
はっとなってアラームを止める。やはり留美はどっぷりと瞑想に入っていたらしい。
「今日も何も見えなかったなあ」
細切れの時間では成果は上がらないのだろう。今度の休日にゆっくり時間を作ろう。
水晶玉とタロットをしまい、ロッカーの鍵を閉めた。
鍵は留美だけが持っている。
留美は戸締まりを確認すると次の授業の教室へ急いだ。
その数時間後、大学の構内に消防車サイレンが鳴り響いた。
占星術部の部室から火が出た、という。隣の部室にいた学生がすぐに煙に気づいてくれて消火器とマスターキーを持って駆け付けてくれたのですぐに消し止められた。
おかげでぼやで済んだものの、当分の間、部室は使用禁止。占星術部のサークル活動もストップがかかってしまった。
問題は燃えたものだ。
火がついて焼けてしまったのは、は部室のカーテンと留美のタロットカードだった。
消防署の話だと、カーテンの側にタロットカードがあり、カーテンに引火した火がタロットカードにも燃え移ったようだ、とのことだった。
他には被害はない。ロッカーの中にあった過去の部誌などはひとつも燃えていない。
留美はぞくりとした。長年親しんできたタロットカードを失ったことが留美にはひどくショックだったこともあるが、それ以上にとても重大な事があったからだ。
タロットカードは水晶玉と共にきちんとロッカーに入れて鍵をかけていたはずなのだ。
しかも、その鍵は留美自身がいまも持っている。
誰かに貸したこともない。
だとしたら、どうやってタロットカードは燃やされたのだろうか……。