大学を出て、寮へ戻った。
靴を脱いでスリッパに履き替える。履き慣れないヒールから解放され、足が軽い。
メールボックスを確かめると郵便物が届いていた。送り主は実家の父だった。
「お父さんか……。さっき浩子先生と家の話をしてたのも何かのインスピレーションだったのかな……」
手紙、というのは珍しい。真名も父もスマートフォンは持っていたし、メッセージのやりとりもしていた。昨夜だって両親とスマートフォンで話したばかりだ。
そのときには手紙を出したなんて言っていなかったのに……。
廊下を歩くスリッパの音が思いの外、大きく響く。もう日暮れ時になっているが、みんな室内にいるのか寮の廊下はずいぶん静かだった。
寮は一人部屋である。
自分の部屋に入って、真名はほっと息を漏らした。
部屋には簡単だが結界が張ってある。入寮の日に父が施した結界だ。真名には張れない。
ただ言われた通りに掃除をきちんとして空気を入れ換えて、部屋に澱みを作らないようにして結界を維持していただけだった。
本職の陰陽師である父の力は絶大で、仮に学内でしつこい悪霊にまとわりつかれたり、動物霊を憑けてしまったとしても、部屋の入り口で外れる。
椅子に座って父からの手紙を手に取った。しばらく眺め、開く。
中には短い手紙と呪に使う霊符が一枚入っていた。