しばらく沈黙していたが、真名がふと重大な事に思い至る。

「あの、こんな個人的で重要な話、私が聞いてしまってよかったんでしょうか」

「うーん」と昭五がメガネをかけ直した。
「あんまりよろしくないかもしれないね。うんうん」

「いやいやいや」

 陰陽師というものは人の裏情報を握っているのが仕事のようなものだから、と昭五が笑う。これこそ笑い事ではないのだが。

 けれども、昭五はくるりと表情を変えて真面目な顔になった。

「いえね。似てるんだよ。真名ちゃんとその女の子」

「え……?」

 そう言って昭五が苦笑いする。

「うんうん。〝他人のそら似〟とはよく言ったものだよ。ほら、真名ちゃんのお父さんから紹介されたときには真名ちゃんの顔知らなかったからさ、初めてここに来たとき、泰明くんと私、めちゃくちゃ驚いていたんだよ?」

「そんなふうには、あまり見えませんでしたが……」

「そんなふうに見せないのが陰陽師だからね。うんうん。だから泰明くん、真名ちゃんにあの記事を見せたあと、私に食ってかかってたでしょ」

 真名が〝自称・霊能者〟の記事に見鬼の才を使ったときに、深く入りすぎて暴走気味になったときのことだった。

「そういえば……」

「うんうん。いいね、いいね。ま、そういうわけだから、泰明くんのドSなところは大目に見てよ。彼なりに真名ちゃんの顔を見るたびに過去と向き合うような気持ちになっているんだろうから。まあ、九十九パーセントは彼の性格だろうけど」

 昭五が人懐っこい笑みで頼む。
 昭五まで〝ドS〟と泰明を評したのがちょっとだけ面白かった。

 そのとき、受付の方から人が入ってくる気配がした。

「ただいま戻りました」
 と泰明が入ってきた。北風のように冷たい表情でコートを脱ぎながら、真名に「もう来てたのか」と一言声をかける。
 先ほどの話を聞く前の真名だったら、氷水をかけられたように震え上がったかもしれないが、いまは違っていた。

「はい。泰明さん、今日もよろしくお願いします」
 と、満面の笑顔で頭を下げる。

 重い過去に厳しく生きようと決意した泰明に、真名は何も出来ないけどせめて笑顔だけは差し出そう。そんなふうに真名は思った。

 なぜって――たぶん亡くなった従兄妹もそう思っているだろうから。
 これは真名の勝手な思い込みかもしれないけど、格好つければ〝女の勘〟だった。