三鷹での取材を早速、真名は記事にまとめることになった。
 ICレコーダーに録音した取材内容を文字に起こし、ルポルタージュ形式にまとめていく。
 ルポルタージュといっても細かい定義は分からないで、とりあえず三人称の記事にしていった。

「神代、期待していなかったが文章が書けるんだな」
 と取材記事を原稿にまとめたものをチェックした泰明がいつもの無表情に近いクールさで言う。
 この場合の「文章が書ける」は褒め言葉だ。

「あ、ありがとうございます」

 とてもうれしかった。
 前半の「期待していなかったが」は無視する。
 明るいところを積極的に見ていこう。

 だが、チェックされて戻ってきた原稿は至るところに細かい書き込みや見たことのない記号――校正記号というらしい――が赤ペンで書き込まれ、真っ赤っかだった。

 いま私は褒められたのだろうか。ただのお世辞だったのだろうか……。

「アカがずいぶん入っているように見えるだろうけど、俺が最初に記事を書いた頃よりは全然手加減している」

「そうなのでしょうか……」

 真名が半分落ち込みながら、泰明の〝フォロー〟を聞いている。

「俺が初めて原稿を書いたときは、編集長に定規とカッターで〝細切れ〟にされた」

「……どういうことですか?」

「アカ入れるよりこっちの方が早いからってな。俺が書いた原稿を細かく段落で切り分けて、別の紙に貼り付けて。そこからさらにアカ入れられて……」

 真名はぞっとした。
 そんなことをされたら、心が折れる。

 ちなみにそのような残酷な仕打ちをした昭五は、ただいま編集長席で昼寝していた。

「つらすぎませんか、それ?」

「殺してやろうかと思った」と物騒なことを言う泰明。
 クールなドS陰陽師なので冗談に聞こえない。
「そこそこ文章を書ける自信もあったしな。だが、記事は大学のレポートでも私の意見発表でもない。何よりも私の書いた記事にお金をいただく。自分が書いて楽しい文章ではなく、〝読まれる文章〟でなければいけない」

「はい……」と真名が神妙に頷く。

 泰明が無表情に続ける。

「その点、神代は書けている。最初なので校正記号のレクチャーもかねてアカを入れたが……。一節まるごと削除なんて指示もないだろ?」

 パソコン島では、背もたれに身体を預けきってほとんど後ろに倒れるような体勢の律樹がひとりで悲鳴を上げている。
 どうやら画像処理に難儀しているようだった。

「月刊陰陽師」編集部は人手が少ない。

 よく言えば少数精鋭だが、慢性的な人手不足には間違いない。

 真名にとって、この編集部が初めてのバイトだったから、他のバイトの繁忙期の忙しさは分からない。
 ただ、先日の取材を十ページのルポ記事にまとめながら、他のページもあれこれ作っていくのは相当大変なことだった。

 おかげさまで大学に入って初めて授業中に居眠りをしてしまった……。