「あ、泰明さん、そこです」と真名がモニターを指さす。「ちょうどこの話を読み始めてからパソコンがおかしくなったんです」
泰明が九字を切り、五芒星も切ったおかげか、今度はブラウザもパソコン自体も異常はない。
マウスでスクロールさせながら内容に目を通した泰明は、ほっそりした指を顎に当てながらしばらく考えるふうにしていた。その横で真名も心を集めて書かれている記事から来る霊的な気配を読み取ろうとする。
けれども、真名にはまだ早いのか明確に霊的な判定を下せるところまでは読み取れなかった。
書かれている投稿は、夜な夜な不思議な音がして眠れない、というものだ。一見すればよくある話のようにも読めるし、文章も短くて拙いから
真名が小さくため息をつくと、泰明が真名に振り向いた。
「神代、写真からそこに映っている人のことは読み取れるか?」
「ざっくりですけど」
見鬼の才を集中させれば、写真の人物でも悪霊やあやかしにそそのかされているかは分かる。けれどもそれは、普通の人の目に見えないだけで写真に悪霊やあやかしが写っているからだ。どういう仕組みか分からないけれども、人の目に見えない存在でも写真に写るのだった。
「写真に悪霊憑依やあやかしのいたずらも写るけど、逆はどうだ? 神社仏閣での光を写真から感じたりするか?」
「感じます。写真って同通しやすいですよね」
真名には、直接会って声を聞いたりした方が一発なのだが……。
「ということは、だ」と泰明がモニタを指さした。「写真を通して被写体を見ているんじゃないんだ。霊的に考えれば、写真を通して被写体が目の前に現実にありありと存在していることになる」
「あ、なるほど」
と真名は首肯した。意識が同通するとは、目の前で対話しているようなものだ。写真を通して霊的に様々なものが見えるなら、被写体が目の前にいて見鬼の才で見ているのと変わらない……。
「それはパソコンも同じ。パソコンをただの機械と思わない方がいい」
「写真と同じで、サイトの世界が目の前に現実のものとして存在している、ということですか?」
真名の質問に泰明が満足そうに頷いた。
「ああ。これが実はネット世界の本当の恐ろしさなのさ。犯罪的なサイトだけではなく、匿名をいいことによる誹謗中傷や悪口雑言は、実は目の前で本人ががなり立てているのとまったく一緒なんだ」
だから、閲覧するサイトによってはサイトの向こうにいるはずの悪霊も飛んでくるし、悪魔が忍び寄るようなサイトも存在するという。
恐ろしいですね、と相づちを打ちながら、真名は先ほどとそのサイトへの見方を変えた。パソコン上の文字列ではなく、現実にその執筆者が目の前にいてその心を見鬼の才で感じ取っていく……。
「あ、これは……」
と真名が呟く。画面を通してもうもうと黒煙のような瘴気が見えた。悪霊がどこまで関与しているかまでは見抜けなかったが、尋常ではない。
――許さない、許さない。
――絶対に絶対に、許さない。
サイトから悪意と呪詛にまみれた言葉が真名に忍び込もうとしていた。吐き気がするほどのひどい波動だ。真名が刀印を構えつつ顔をしかめた。泰明が大きく一回柏手を打って、真名とサイトの意識の同通を切った。
「とりあえず、こいつがさっきからのパソコンの不具合の原因みたいだな」
「ええ。たぶん……」
真名が青い顔で答える。柏手一つで真名を救い出せる泰明の法力に呆然としていると、泰明が言った。
ここに書いてある場所に取材に行こう、と。