古いわけではないが、使い込んである雰囲気がした。中には乱雑な文字でいろいろ書かれているが、そのうちのいくつかはボールペンでぐるぐると丸がしてある。〝霊山の噓ホント〟〝事故物件調伏法〟〝『金烏玉兎集』とタロット占いの関係〟〝吉祥寺の自殺事件の霊的背景〟などと書かれていた。

 口は悪いが、態度も大きいが、目つきも怖いのだけど、教えることは教えてくれるのである。

「俺の場合、思いついたこと、聞いたことなんかを何でもメモしてある。その中で記事になりそうなものを出し合って会議して決定するのだが……」

 泰明が昭五を促すと、昭五がにこにことして言った。

「まだ入稿まで三週間もあるし、今回は神代さんの練習もかねて、ネットから探してみてよ」

 三週間という時間が、月刊誌として「まだ三週間」なのか「ぎりぎり三週間」なのかは真名には分からなかったが、がんばらなければいけないことは分かる。だが、根本的な疑問はあった。

「ネットで調べていいんですか」

 先日、あの偽霊能者を見破ったのは、記事はネットの拾いものによる偽物だと真名が看破したからだ。けれども、昭五はあっさりと言った。

「いいよ。この前の記事は偽物だったけど、ネットの世界は玉石混淆。本物のネタが転がっていることもあるからね」

「はあ……」

「もちろん、手持ちで面白いネタがあればいいけど、ある?」
 と昭五が聞いてくる。

「ありません……」

 女子大での悪霊憑依率の統計とか取っても、記事になる自信がない。
かくして真名は自分の席のノートパソコンで検索に明け暮れるのだった。 翌日になっても、真名はよいネタを見つけることができないでいた。