真名がどうしたものかとおろおろしていると、ダメ出ししたページの印刷を裏紙にして泰明がシャーペンを走らせた。〝親指の爪〟よりも大きく、手のひらサイズくらいの長方形の中に、長方形や縦横斜めの線を手早く書き、真名に見せた。

「少し大きめに書いたが、これがサムネイルだ。斜線の引いてある四角が画像。線分がキャッチコピー。N字みたいなのが文章で、このページなら問い合わせ先とかになる。この通りに作れば、このページはだいたい形になる」

 まるで魔法のようにシンプルにきれいに出来上がっている。かっこいい。

「すごい……」

「神代がここまで形にしたら、あとの調整はデザイナーの律樹に任せればいい。サムネイルがあって、それを形にしていけば一日で広告ページはほとんどケリがつく。だからこうしろって言ったのに……」

 泰明にまた睨まれて、律樹が小さくなっている。

「ありがとうございます。これでがんばりますね」

 真名は満面の笑顔で答えた。何かこう、泰明から律樹へのお怒りが鎮まってほしい……。
 泰明が持ってきていたペットボトルをあおった。

「律樹の周りや他のパソコンの側にある雑誌、好きに読んでいい。出版印刷関連の専門誌だから、読んで覚えろ。それ以外の雑誌も、キャッチコピー、レイアウト、デザインの勉強だと思って目を通しておけ」

「はいっ」

 泰明が手近にあったラグジュアリー感のある男性雑誌の広告ページを開いた。

「たとえば、このブランドの広告。すごく潔い。黒一色に、金字でブランドロゴだけ。けれども、このブランドらしい。同じくらいの知名度のブランドでも、別のブランドだと真似できない」

「確かに。隣のページのブランドだと、黒地だけよりブランドのモノグラムを出した方が絶対に分かりますものね」

 真名がそういうと、泰明が頷いた。

「そういうことだ。神代、センスは悪くないみたいだな」

 その言葉に真名は耳まで熱くなる。

「そんな……」うれしい。

「ほんと、ほんと。泰明はバイトにどこまで求めてるんだろって呆れるし、ときどき口が悪いけど、噓は言わないから。――って、あぶないじゃんか」

 軽口を叩いていた律樹が瞬間的に頭を引っ込めた。律樹の頭のあった辺りを、泰明の平手が通過している。

「律樹、うるさい。どっちが主人で式神だか、思い知らせてやろうか」

 泰明が不穏な言葉を口にしたときだった。オフィスのドアが大きな音を立てて開き、昭五が入ってきた。

「いやいやいやいや。暑いね」

 ばたばたと入ってきた昭五は息を切らせながら給湯室に直行する。冷蔵庫の麦茶を二杯あおり、三杯目をついだコップを持って編集長席に座った。

「お疲れさまです」と泰明が編集長席に近づく。「どうでした?」

 昭五が首回りの汗を拭いて答えた。

「いやー、見つかんないねぇ」と嘆きながら、昭五が真名を呼ぶ。真名が編集長席の側に来ると、昭五が泰明に尋ねた。「いまって、神代さんは何してたっけ?」

「広告ページですよ」と泰明が台割片手に答えた。

「うんうん。そうしたらさ、広告のところは律樹くんでごっそり持ってもらって、神代さんにもネタ探しをしてもらえないかな」

 真名が「月刊陰陽師」編集部に来た初日、真名が昭五に頼まれて原稿チェックした件が絡んでいた。今回、あの自称〝作家〟兼偽霊能力者の記事を没にしたため、台割に一部空白が生じている。昭五は知り合いの霊能者を回って原稿依頼をしているらしいのだが、いまのところはかばかしい成果はなかったのだ。

「入稿まであと三週間。うちの普段のペースだと意外とぎりぎりか……」
 と泰明が嘆息している。昭五が眉を八の字にして両手を合わせた。

「ごめんねー、そういうわけだからネタ探しを手伝ってほしいんだ」

「分かりました」と、真名は神妙に頷く。あの記事を没判定したのは真名でもあるわけで、責任は感じていた。「でも、ネタ探しってどうすればいいんですか」

 泰明が自分の席からノートを持ってくる。