「うーん。これは〝なし〟だな」
と、頭の上から泰明の声がする。真名はぎょっとなって振り向こうとした。スクナが真名の頭から振り落とされそうになって抗議する。真名がスクナに謝って、改めて泰明の方を向いた。いまの言葉通り、厳しい顔をしている。
「律樹、神代に何を教えた?」
その言い方から、真名の作ったページがものすごく不出来だった感じがして、横で聞いていた真名は胸が痛くなった。
「何って、画像の取り込み方とか、文字の打ち込みとか、流し込みとか。デザインソフトの使い方?」
「広告の参考には何を?」
「過去のページ」
真名の前に直近数回分の広告ページが広げられている。
「すみません、泰明さん。私、こういうの初めてで、センスがなくって」
一応、高校では美術は「五」だったのに、と悲しくなった。
泰明は小さくため息をつくと真名にではなく、律樹に低い声で言う。
「サムネイル。ちゃんと書いてやったのか?」
それまでイヤホンで音楽を聞きながら機嫌よく仕事をしていた律樹が固まった。イヤホンを耳から外し、引きつった笑みで泰明に振り返る。
「忘れてた」
「何だと?」
律樹が起立し、直角に頭を下げた。
「真名ちゃんにサムネイルを書くのを忘れていましたっ。申し訳ございませんっ」
泰明がこれ見よがしに舌打ちしている。
「あの、何があったのですか」
不機嫌を露わにしている泰明と冷や汗を垂らしている律樹を見比べながら真名が尋ねた。すると、今度は泰明が、不機嫌を隠そうともせずに言う。
「コイツが神代にサムネイルを教える手間を惜しんで手を抜いた。あとでしばく」
「えっ!?」ちょっと変な声になった。
サムネイルとは、直訳すれば〝親指の爪〟。あるページにどのような画像やキャッチコピー、導入とされるリード文、本文などをどのように配置するかを、実際のページよりも小さく簡単に書いたスケッチだという。
「サムネイルはざっくり言えばページレイアウトの指示書だ。その通り配置すればデザイン的に外さないですむサムネイルを律樹に書かせて、神代にページを作ってもらう。それも立派な成果だ。そういう小さな成果を積み重ねて、自信がついていくものなのに。この馬鹿式神が忘れやがった。――悪かったな」
「あ、いえ」馬鹿式神は言いすぎなのでは……。
「律樹にはあとで厳しく指導しておく」
と言って泰明が律樹を一瞥した。さっきは〝しばく〟と言っていたはず。律樹が震え上がっている。