真名は浩子から視線を外して、キャンパスを行き交う女子大生たちに意識を集中させた。構内を歩いている学生たちの半分くらいに、ぼんやりした白い霞のようなものが重なる。やがてそれらは人の姿を取り、ささやく声が〝真名の心〟に聞こえてきた。
《あの女、ムカつく》
《私なんてどうせダメなんだ……》
《教授とか言ってあんな課題出して。さっさと死んじゃえばいいのに》
恨み、憎しみ、嫉妬、怒り、自己憐憫などの声を発しているのは、女子大生に取り憑いている悪霊や不成仏霊たち。悪霊たちの霊波動で頭が痛くなってきた。
この大学に限らず、だいたい半分くらいの人は何らかの憑依霊の影響を受けていることが多い。こういう悪霊やあやかしなど、霊的な存在が見え、声が聞こえる――真名は、生まれつきのいわゆる霊能者だった。
意識を集中させていなければほとんど気にならないから、普段の生活ではごまかすこともできる。けれども、いまのように意識を集中させたら、そこにいる霊的な存在がどんどん感知できてしまうのだ。
これが面接でものすごく裏目に出た。
面接官の話を真剣に聞いて、真面目に対応しようとすればするほど、精神が集中されて意識が研ぎ澄まされてしまう。
おかげで面接中に、面接官の顔が二重写しに見え始め、恨めしげな顔の憑依霊がしきりに話しかけてくる。
こうなるともう面接どころではなくなってしまうのだ。
中には力の強い悪霊や小悪魔を憑依させている者もいて、こちらから意識を集中させなくても〝見える〟場合もあった。
「大丈夫?」
と浩子が心配そうに覗き込む。
「大丈夫です」
真名が微笑むと、浩子は不思議そうに先ほどまでの真名の視線の先を追った。浩子には何も見えていないはずだ。
「つらいときは、つらいって吐き出しちゃってもいいんだよ? 真名ちゃん、いい子だからついつい抱えちゃうでしょ」
「先生……」
今度こそ本当に真名は泣きそうになった。
――実は私、ちょっとした霊能力があって。就活してるのに面接官の憑依霊が見えて面接失敗しちゃうんです。
浩子先生、何かいい方法ないででしょうか……などと質問できるわけがない。
それに相談しても解決するとも思えない……。
霊能力が悪いものだけを見るのではないのがせめてもの救いだ。
神社仏閣などできちんと神仏の光が降りている場所へ行くと、まばゆい光が見えて本当に心身共に軽くなる。もはや就職先に神社仏閣を選ぶしかないのだろうか……。
「就職活動がどうしてもうまく行かなかったら、ご実家のお仕事を手伝ったりはできないのかしら?」
浩子が眉を八の字にして一緒に悩んでくれる。いい先生だと思う。
けれども、真名にとっては〝ご実家〟なるものがまた一癖あった。