いま真名は自分の席からパソコン島に移動して、律樹から指導されながら、彼の横のパソコンで広告ページの制作をしている。

 目線を動かすと、自分の机で仕事をしている泰明の姿が見えた。

 端整で聡明な顔立ちの泰明は、仕事をしているとより一層凜々しい。少し怖いくらいの表情だが、働いているときの顔っていいなと思う。オフィスラブが成り立つ理由が分かった気がした。

 ちらちらと泰明の顔を見ていたら、いきなり律樹に声をかけられた。

「真名ちゃん、手が止まってるけど、分かんないところあった?」

「は、はい? あ、いいえっ」自分の煩悩を見抜かれたような気がして、動転する真名。「今のところ順調であります」

 広告といっても、普通の雑誌のような清涼飲料やブランドの広告ではない。霊符作りの老舗や霊力を入れた法具の販売、キリスト教系のエクソシスト向けに生遺物の取扱店舗の広告等だった。

「広告ページってだいたい広告主が広告レイアウトをバシッと決めてくれるのが多いんだけど、うちって特殊じゃん?」
 と、ワイヤレスイヤホンで音楽を聴きながら作業している律樹が説明する。

 たとえば、霊符作りの老舗となれば八十歳くらいのその道のプロが細々と営んでいる。いくらパソコンやスマートフォンが必須の世の中になったとはいえ、八十歳のおじいさんがスタイリッシュな広告ページを作るのは難しい。

「それで、『月刊陰陽師』編集部の方で作るんですね」

「そ。その方が僕らがいただける単価も上がるしね」

「ははは」

 きちんとした仕事には正当な報酬を。大事なことだと思う。

「それに、霊的に敏感な人だとパソコンとかいじると霊力が落ちるっていう人もいるんだよ」

 真名は少しびっくりした。

「私は、そこまで感じませんけど」

「たぶん、ご指導いただいている神さまの時代にはパソコンがなかったのが原因じゃないかな? 不慣れなものだと意識がずれるでしょ」

 すると真名の頭の上のスクナが補足する。

「きーぼーどをばしばし打っている人間には啓示が降ろしにくいの」

「まあ、キーボードを叩きながら精神統一できるかっていったら、結構難しいですものね」

「あと数百年くらいしたら、スクナたち神さまの世界でもぱそこんを体験した神さまが出てくるかもしれぬがな」

 広告主からもらった写真や過去の広告掲載から画像を転用して広告ページの素材にする。写真やイラストの加工には、真名も聞いたことがある有名な画像処理ソフトを使っていた。ただ、モノクロの写真であってもかりっときれいに仕上げるには細かなテクニックが必要なようで、そこはデザイナーである律樹の専売特許だった。

 真名のすることは、画像の素材や短いキャッチコピーや価格などをページレイアウトソフトを使って与えられた広告ページに配列することだった。キャッチコピーは広告主がくれることもあれば、こちらで考えることもあった。いまやっているページは自分で考えなければいけないパターンだった。

 素材はあっても、それをどう並べるかで印象はまるで変わってくる。だからこその〝編集部〟の仕事だし、先ほど律樹が言った通り単価も上がるのだが、素人の真名にはなかなか難しい。

 あれもこれもと画像をもりもりにして一つ一つが小さくなりすぎたり、キャッチコピーが長くなってしまったり。何度も印刷して確かめるが、劇的によくなる傾向もなく、苦戦していた。

 真名が十回目の印刷物を見てため息をついたときだった。