「はあ~~~~」

 神代真名は藤美女子大学の外ベンチに腰掛け、ため息をついていた。

西日射す女子大を、おしゃれな格好の学生が何人も歩いている。
 次の授業に急ぐ学生もいれば、何人かでおしゃべりしながら楽しそうに歩いている学生グループもいた。

 そのうち何割かは濃い紺色のスーツを着ている。
 いわゆるリクルートスーツ。
 就職活動をしていると一目で分かる格好だった。

「はあ~~~~」

 ともう一度ため息をついて、真名はうなだれる。自分の服が嫌でも目に入った。
 目の前を行き交う就活生と同じ、濃紺のスーツ――真名も就職活動に汗を流さなければいけない大学三年生なのだ。
 けれども、友人たちの半分以上が内定をもらいはじめている中、真名は一次面接で常に敗退していた。

 成績が悪かったわけではない。勉強はしっかりやってきた。都内の女子大で英文学部だから、就職にすごく有利ではないかもしれないけど、TOEICだってがんばった。
 見た目は、可もなく不可もなし。長い黒髪は後ろでひとつにまとめ、前髪は斜めがけにしていた。中肉中背で、モデルにはほど遠い顔立ちとスタイルだけど色白の肌はひそかに自慢に思っている。

 だが――面接ではダメなのだ。主として、自分の努力ではどうにもならないところで……。

 スマートフォンに届いている〝お祈りメール〟と今後のスケジュールを陰鬱な気持ちでチェックしていたら、誰かに背中を叩かれた。

「真名ちゃん」

 振り向くとメガネをかけたボブヘアの若い女性が立っていた。
 英文学部准教授の栗原浩子だった。きれいな顔立ちをしている。知的美人、というのだろうか、目元が涼やかなのに温かみがあった。やや小ぶりの鼻も愛嬌があると思う。桃色の唇がまるで子供のようにかわいらしい。けれども、顔や立ち姿の全体は知的な雰囲気が漂っていた。
 大学にいる間に一生懸命英文学を勉強したら、こんなふうになれるかと真名は憧れたが、どうやらダメらしいと就活前に悟った。

「栗原先生……」

 振り向いた真名の顔を見て、浩子がぎょっとした表情になる。

「ど、どうしたの、真名ちゃん!? 泣いてたの!?」

「え?」浩子にそう言われて、真名は慌てて目元を拭った。手の甲に涙がべったりつく。「あ、大丈夫です。まだ泣いてません」

「〝まだ〟って……」

「ちょっとじんわりしていただけで」

 浩子が少し困ったような笑顔で、真名の横に腰を下ろした。

「就活でつらいことがあったのかな? 圧迫面接とか、セクハラとか」

「いいえ……そうではないのですけど」

「じゃあ、大事な面接で失敗しちゃった? 遅刻、とか」

「……違います」

 圧迫面接やセクハラなら文句の言いようがある。面接の失敗や遅刻ならば自己の責任だ。

 けれども、真名には浩子にも話せない秘密があった。