セミがけたたましく鳴いている七月の下旬。俺は響と駅前で待ち合わせをしていた。

夏休みも会いたいからと誘ったのは自分なのに、ずっと気持ちが落ち着かなくて予定より三十分も前からここにいる。

出掛けるプランはとくに決めていない。

電車で遠くに行くのもいいし、市営バスで移動するのもいいし、徒歩で当てもなくフラフラするのもいいだろう。

響となら、どこに行ってもなにをしても、なんだって楽しいに決まってる。

『もうすぐ着くよ。どこにいる?』

彼女から電話がかかってきた。辺りを見渡すと、同じように俺のことを探している彼女を見つけた。

Tシャツにデニムのショートパンツを履き、足元は歩きやすいスニーカー。短い髪の毛を後ろでひとつに結び、黒色のキャップを被っていた。

そのボーイッシュな格好は響によく似合っている。見とれるようにぼーっとしていると、彼女が俺のことに気づいた。

「ポストの前にいるならそう言ってよ」

「響に見つけてほしくて」

「なに言ってんの」

「なに言ってんだろ、俺」

「寝ぼけてるなら帰るから」

会って早々に怒らせてしまったけれど、俺はそれすら嬉しくて、バカみたいにテンションが上がっていた。

考えた末に、線路沿いを歩きながら栄えている隣街へと向かうことに決めた。目的として綺麗なものを撮るということが前提にあるので、俺たちは気になったものにスマホを向けた。

それは雑貨屋の前に置かれていた木馬やブリキのおもちゃ。マンホールのイラストに、新緑豊かな公園の池にいた錦鯉。響が隣にいる街の風景は、すべてが特別なもののように感じて、一瞬一瞬を逃したくないと、いつも以上に写真を撮りまくった。

「なんか腹減らない?」

「私はコンビニでもいいよ」

「うーん、じゃあ、あそこは?」

指さしたのは、レトロな喫茶店だった。中学生の俺たちが入るには少し大人な雰囲気が漂っているけれど、響の前では背伸びをしたい自分もいた。