「この広い家にひとりじゃ、じいちゃんも寂しいだろうね」
早坂は疲れた足を伸ばして手で揉みほぐしている。
「じいちゃんの家族って……」
「娘がいるよ。孫もたしか私たちぐらいの歳なんじゃないかな。でも全然顔も見せに来ないらしいよ」
「そう、なんだ」
「四年前に死んじゃったじいちゃんの奥さんもすごくいい人でさ。会うたびに色々野菜とかお菓子とかくれたよ」
高齢化が進んでいるこの町に住んでいれば、死に触れることも多いのだろう。早坂は続けるようにして、世話になった今は亡き人たちとの思い出も教えてくれた。
「礼はもういいって」
じいちゃんは帰り際、またたくさんの野菜を袋いっぱいに持たせてくれた。
「なにか困ったことがあればいつでも言ってよ」
「年寄り扱いするな。八十を越えてもお前たちより俺は元気だよ」
「はは、たしかに。じゃあ、また」
そう言って、じいちゃんの家を出た。
早坂は動画配信日だからと急いで自宅へと帰り、俺も畦道をとぼとぼと歩く。また夕焼けが赤く染まっていて、響のことを思い出した。
彼女と離れていた二年間。その間に響がどんな生活をしていたのかはわからない。
いつも電話をするたびに、メールするをたびに聞こうと思っているけれど、結局十四歳の頃の話ばかりをしてしまう。