「着替えないけど、どうする?」
早坂はジャージをめくって、水分をたっぷり含んだ裾を雑巾のように絞っている。不意討ちに見えてしまった細いウエストに目が点になってしまった。
「旭のエッチ」
「ち、違うし」
「まあ、私はそういう目で見てもらったほうがいいけど」
「だから違うって!」
「なんでもいいけど、着替えだよ。着替え」
「あ、暑いし自然に乾くだろ」
そんな会話をしていると、じいちゃんに呼ばれた。どうやら田植えを手伝った礼がしたいらしい。そんなのいいよと俺は断ろうとしたけれど、早坂は遠慮なく「やったあ!」と喜んでいた。
服が濡れているので案内されたのは、風通しのいい縁側だった。一年中出しっぱなしだという風鈴が綺麗な音を奏でて揺れている。じいちゃんは麦茶の他に冷えたトマトも出してくれた。
「あと枇杷もあるけど食っていくか?」
「そんなにいいよ」
「子供が遠慮なんかするな。こっちは田植えを手伝ってもらえて本当に助かったんだから」
じいちゃんは嬉しそうにまた台所へと消えていった。